キッチン使用禁止はつらいよ
任務を明日に控えた夜のことだった。
俺は、喉が渇いたからキッチンに向かったんだ。
(あったかいものが飲みたいけど、ハルくん起きてるかな~)
自分であったかい飲み物を作るのは禁止されてるんだよね。
まあ、キッチンを使う度に問題を起こしちゃったからしょうがないけど!
その途中で、リビングのソファで項垂れる颯くんを見かけたんだ。
「颯くん、どったの~?」
「あ、虹太さん! さっき、透花さんに明日用のネイルをしてきたんすけど!」
「うんうん」
「そしたらなんか、もっとやりたいって気持ちがガーッと湧いてきて! でも指を貸してくれる人がいないから、ここで悶々としてたんす……!」
「なるほど~」
颯くんのネイルの練習台になってくれる人って、あんまいないんだよね。
柊平さんと蒼一朗さんは、男なんだからそんなもんしないってタイプだし。
りっくんと湊人くんは、仕事の邪魔だって言うし~。
水仕事が多いハルくんは爪のケアはお願いしてるみたいだけど、さすがに色を塗ったりっていうのまでは遠慮してるみたい。
心ちゃんはいいよって言ってくれるみたいだけど、高校生だからね~。
校則でネイルはNGらしいから、すぐにおとさなきゃなんないんだって。
それに、早寝だからこの時間なら絶対に寝てるだろうしな~。
俺も、ピアノと本格的に向き合うまではOKしてたんだけどさ。
キャラ的にも合ってるし、大学の友達も似合ってるって言ってくれたしね☆
でも、なんとなく指が重くなる気がするから最近は断っちゃってるんだ。
女の子が苦手な颯くんは、男の人に頼むしかない。
でも、ネイルをOKしてくれる男の人ってそんなにいないもんね。
チップで練習してたみたいだけど、生身の人間にやりたくもなるよな~。
「颯くん、俺でよければ久々に練習台になるよ~!」
「え!? マジでいいんすか!? でも、ピアノが……」
「今日はもう寝るし、明日も一日任務だからへーきへーき☆ 明日の任務が終わったらすぐにおとしちゃうことになるけど、それでもだいじょぶ?」
「もちろんっす! 虹太さん、あざっす!」
「いえいえ☆ その代わりと言ったらあれなんだけど、なんかあったかい飲み物作ってくれないかな? ほら、俺キッチンの使用を禁止されてるから~」
「了解っす! すぐに作って持っていくんで、俺の部屋で待っててください!」
そう言うと、颯くんは慌ただしくキッチンに入っていった。
電気が消えてて誰もいないっぽいから、お願いできてよかった~。
牛乳好きの颯くんのことだから、ホットミルクを作ってくれるんだろうな。
そんなことを考えながら、一足先に颯くんの部屋に向かったんだ。




