音楽のことだと、自然と頭に入ってくるんだ
任務の三日前に、湊人くんが俺の部屋にやって来た。
「はい、どうぞ」
「なーに、これ?」
「今度のパーティーに来る客人の中で、特に重要な人物のデータだよ。透花さんに頼まれたから、みんなに配ってるんだ。あなたは彼女のエスコート役なんだから、ざっと目くらい通しておいてよね」
「ほ~い」
透花さんが湊人くんを呼び止めてた理由はこれだったんだろうな~。
そんなことを考えながら、俺は渡された資料をパラパラとめくった。
そこには、その人物の名前や出身地、家族構成などが細かく書かれてる。
それだけじゃなくて、好きな食べ物や色、動物なんかまで載ってた。
写真も添えてあるから、その人の顔までわかるようになってる。
(ひゃ~。相変わらず湊人くんはすごいな~。……ん?)
かるーく目を通すだけのつもりだったのに、とある欄が俺の目を惹く。
「好きな音楽……?」
この人はクラシック、次の人は演歌、こっちの人はジャズ。
同じような年代の人も多いのに、音楽の趣味は全然違って面白いな~!
曲の名前まで書いてある人もいて、俺はそこだけを夢中で読み始めた。
いつになく熱心に資料を読み込む俺を、湊人くんは不審な目で見てる。
「急に真面目になって、どうしたのさ?」
「いや、この好きな音楽のところが面白いなーって思って!」
「ああ。虹太くんはそういうの好きだもんね」
「うん☆ 万人に好かれる音楽ってなかなかないと思うけど、音楽自体を嫌いな人ってあんまり聞かないじゃん! ねえねえ、これってこの重要な人たちだけじゃなくて、他の人のデータもあったりするの?」
「もちろん。いやあ、虹太くんが僕のデータに興味を持ってくれるなんて嬉しいな。紙にすると膨大な量になるから、データでもよければ渡そうか」
「やった~♪ 湊人くん、ありがと☆ えーっと、料金は……」
「今回は特別に、タダでいいよ。任務に関わることでもあるしね」
「湊人くんってばふとっぱら~!」
こうして俺は、パーティーに参加する何百人分かのデータを貰ったんだ。
ほんとにすごい量だったから、見るのがちょっぴり大変だったけど……。
でも、音楽のことだと勝手に頭に入ってくるから不思議だよね。
あっという間に、参加者全員の顔と好みの音楽をバッチリ記憶しちゃった☆
これでいろんな人との会話も弾むだろうし、任務が楽しみだな~♪