ぼくのじまんのおにいちゃん
救急車の出発を見送ってから、蒼一朗は恵輔たちと別れ白組の応援席に戻った。
そこで待っていたのは、レースを放棄したことへの罵詈雑言ではなく温かな拍手だった。
優勝こそ逃してしまったものの、誰も気付いていなかった老婆の異変にいち早く気付いた彼には次々に賞賛の言葉がかけられた。
「あんたすごいね! あんな距離からおばあさんの様子がおかしいって気付くなんてさ!」
「ほんと、大した兄ちゃんだぜ! 処置も早かったし、あのばあさんはきっと助かるさ!」
「隣を走ってた兄ちゃんも一緒にコースを外れていくもんだから、驚いたよ~!」
「確かにそうだ! なんか、男の友情って感じだったよな~!」
周囲の人たちからの声かけが一段落したところで、蒼一朗は大和と向き合った。
レースを放棄してしまったことを、まだ謝っていないからだ。
「大和、ごめんな……。絶対勝つって約束したのに……」
申し訳なさそうな蒼一朗の言葉を聞いて、大和はふるふると首を横に振った。
そして、“おにいちゃん、かっこよかったよ。”と書いた紙を見せる。
「でも……」
納得いかない様子の蒼一朗に、“いっしょうけんめいおばあちゃんをたすけようとしてるおにいちゃん、ほんとうにかっこよかった。ぼくのじまんのおにいちゃんだよ!”と書き綴った文章を見せる。
その表情は、今日一番と言ってもいいくらい輝いたものだった。
「……そっか。大和がそう思ってくれたんなら、それでいいか!」
蒼一朗も眩しい笑顔を大和に返すと、彼の頭を優しく撫でた。