想像すると、ワクワクしない?
……二人とも喋らないまま、少しだけ時間が過ぎた。
ハッと我に返ったような動作をすると、奏太くんは拍手をしてくれる。
「す、すみません! 椎名さんの演奏がすごすぎて意識が飛んでました……!」
そう言った奏太くんの顔は、ちゃんと笑顔だ……。
その言葉に安心した俺は、へにゃりと笑う。
しばらくピアノを弾いてなかった間に変わったのは、演奏技術だけじゃない
……聴衆からの反応にも、ずいぶん臆病になっちゃったんだな~。
昔は、どんな反応をされてもぜーんぜん平気だったのにさ。
まあ、これもいろんな人に聴いてもらって徐々に慣れてくしかないよね。
「最後は僕が椎名さんに聴いてもらった曲だったのに、僕が弾いた時とは全然違いました……! 音の一つ一つが、本当に楽しそうっていうか、キラキラしてるっていうか……。 うまく言えないんですけど、感動しました!!」
「ありがと~☆ 奏太くんにそう言ってもらえて、とっても嬉しいよ♪」
「どうしてこんな風に弾けるんですか!? 僕にも教えてください!」
「う~ん、どうしてって言われても難しいなぁ。俺、感覚派だからうまく説明できないし。ピアノを弾く時に、これだけは大切にしてるってことならあるよ~」
「なんですか!?」
「自分の演奏を聴いてくれるお客さんの、笑顔を想像すること!」
「笑顔を、ですか……?」
「うん♪ 今回は、奏太くんに喜んでほしいなぁ、笑ってほしいなぁって思いながら弾いたんだ~。要するに、気持ちを込めて弾くってことかな☆」
「でも、気持ちだけでこんなに……?」
「奏太くんさ、前俺にピアノを聴かせてくれたじゃん? あの時俺、ボロボロ泣いちゃったよね。あれってやっぱり、奏太くんが心のこもった演奏をしてくれたからだと思うんだ。すっごくすっごく感動したんだよ」
「僕の演奏が、椎名さんを感動させた……」
「気持ちを込めて弾けば、それは絶対に誰かに届くんだよ。俺はそう信じてる。……って、しばらくピアノから離れてた俺が言っても説得力ないけどさ~」
「……いえ、そんなことないです。椎名さんの言葉、ちゃんとわかります」
奏太くんはそう言うと、子どもらしい笑顔を見せてくれた。
こういう顔が見れると、演奏してほんとによかったって思うよね~!
しばらく雑談をしてたら、奏太くんがリュックから楽譜を何枚か取り出した。
「椎名さん、よかったらこれ、一緒に弾いてもらえませんか……?」
「これ、連弾の楽譜?」
「はい! 椎名さんと弾けたら楽しいだろうなって思って持ってきたんです」
「もちろんオッケーだよ~☆ じゃあ、早速やってみよっか!」
「え!? いきなりで大丈夫ですか!? 楽譜に目を通す時間とか……」
「へーきへーき♪ 初見は得意だから安心して!」
「……わかりました! じゃあ、よろしくお願いします!」
この後は、連弾をしたり、奏太くんのピアノを聴かせてもらったりしたんだ。
今考えても、すっごい楽しい時間だったな☆
それから、最低でも月に一回は二人で弾く日を作ってるんだよ~。