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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十六話
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初恋の予感!?

⑤二階堂湊人の場合


「予定の時間よりも少し早かったかな? 二人とも、帰ろうか」

「みなとにい! すぐじゅんびしてくるからまっててね!」


 大和と美海が帰る準備をするためにその場を離れていく。

 湊人の目が、将棋盤を挟んで向かい合う少年と少女の姿を捉えた。


(へえ。最近の子も将棋を指すんだ。大和くんもやってるし驚くことじゃないか)


 自分の好きな遊びを、小さな子たちが楽しんでいることは嬉しい。

 そう思い、好意的に見守っていたのだが――――――――――――。


「へへーん! これでこの駒はオレのもんだ!」

「えっ!? ずるい! ふはそんなふうにうごかせないよ!」

「あ!? なんだ、お前! オレがいいって言ったらいいんだよ!」

「そんな……!」


 どうやら、対等な勝負というわけではなさそうである。

 体の大きな男の子が、自分勝手な言い分で年下の女の子を困らせているのだ。


「こらこら、そんなのは将棋とは言わないよ。将棋の駒を使った違う遊びって言うなら構わないけど、それならそれできちんとルールを決めないと」

「な、なんだよ!? あんたには関係ないだろ!」

「うん、そうだよねえ。僕もそうは思うんだけど……」


 いつもの湊人なら、このような口出しはしないだろう。

 だが、彼には彼なりのこだわりがあるのだ。


「僕、ゲームのルールを守らない人間は許せないんだ。ルールを守って遊ぶから、こういう遊びは面白いんだよ。それとも君は、そうでもしないと勝てないの?」

「そっ、そんなことねえ!」


 湊人の挑発に乗せられてしまった少年が、こちらにやって来る。

 彼の腕には、将棋盤と駒が抱えられていた。


「オレは普通にやっても強いんだ! 勝負しろ!」

「いいよ。僕が勝ったら、さっきみたいなことはもうしないでね」

「オレが勝ったら、あんた、なんでも一ついうこと聞けよな!」

「わかった。平手でいいのかい? すぐに勝負がついちゃうと思うけど」

「……あんまり、オレのこと馬鹿にするな! ハンデなしに決まってんだろ!」

「そう。お迎えに来てる身だからそこまで時間はないし、ちょうどいいかもね」


 湊人の挑発に少年は顔を真っ赤にしているが、駒を乱暴に扱ったりはしない。

 実力があるというのも、あながち間違いではないのだろう。


「じゃあ、よろしくお願いします。せめてもの情けで、君に先手をあげるね」

「……くそっ! 絶対に勝つからな!」


 湊人の眼鏡が光ったように見えたのは、恐らく気のせいではない。

 勝負は、大和と美海が戻って来るまでの間についた。


「つ、つええ……!」

「ありがとうございました」


 言うまでもなく、湊人の圧勝だ。

 頭を使うゲームで、湊人に敵う者などそうそういないのだ。

 放心状態の少年をよそに、湊人は先程まで将棋をしていた少女に声をかける。


「もし将棋をしたければ、次は柏木大和くんを誘うといいよ」

「やまとくんを……?」

「大和くんは僕の将棋の弟子だからね」

「やまとくんの、しょうぎのししょう……」


 ここで、準備を終えた大和と美海が戻ってきた。


「じゃあ、行こうか」


 湊人は、何事もなかったかのようにその場を去ろうとする。


「あっ、ありがとうございました!」

「いえいえ。僕がああいうのは許せなかっただけだから」


 少女からの感謝の言葉に、湊人は笑顔で応えた。

 そして、大和と美海と一緒にクラブを出て行く。

 少女の頬が少し赤くなっていたのに気付いたのは、大和だけだ。


(目がハートになってる……。まさか、みなとおにいちゃんのこと……?)


 大和は、人が恋に落ちる瞬間を目撃してしまうのだった。

 二階堂湊人がお迎えに行くと――――初恋の予感!?

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