植物博士!+不名誉な称号
④春原理玖の場合
今日は理玖が迎えの当番である。
学童クラブまで迎えに行ったものの、室内に美海と大和の姿は見当たらない。
どうやら、庭で遊んでいるようだ。
「よかったら庭まで行って、二人に声でもかけてあげてください」
職員に促され、理玖は庭に向かう。
そこには、花壇の前にしゃがみ込み何かを話す子どもたちと職員がいた。
その中、大和と美海も混じっているようだ。
「さいきん、かだんがさみしいよね……」
「うん。はるみたいに、たくさんお花がさいてないもんね……」
「じゃあ、来年の今頃にはお花が咲くように何か育ててみようか!」
職員の一言で、子どもたちはそれこそ花の咲いたような笑顔を浮かべる。
「さんせー!」
「せんせい! なんのお花そだてるの?」
「うーんとキレイなやつがいいよね!」
みんなの盛り上がりをよそに、職員は気まずそうな表情を浮かべる。
「う~ん……。先生、あんまりお花には詳しくないんだ。今度調べておくね」
「「「えー!」」」
子どもたちは、不満そうな声をあげた。
彼女たちは今、花の話がしたいのだ。
ここで大和が、理玖の存在に気付く。
彼は理玖の所まで行くと、服の裾を掴み花壇を指差した。
こっちに来てほしいという意思表示のようだ。
大和が理玖を連れて花壇の前につくと、皆が理玖のことを認識した。
「あ、りくにい! りくにいならお花のおはなしたくさんできるよ! お花のことならなんでもしってるし、うちのにわのお花もおせわしてるんだもん!」
美海の言葉をきっかけに、少女たちの視線が理玖に集まった。
「ほんとに!? キレイなおにいちゃん!」
「ふゆでもさくお花のことおしえて!」
「綺麗なお兄ちゃんって……」
理玖は不服そうだったが、キラキラと輝く表情に気圧されたようだ。
重い口を静かに開くと、ぽつりぽつりと話し始める。
「……こういう場所で育てるなら、パンジーなんていいんじゃないの。色もたくさんあるし、ガーデニング初心者でも育てやすいくらい丈夫だから。十月くらいに苗を買ってきて植え付ければ、冬の間も花を楽しむことができるよ」
「パンジーってはるのお花だとおもってた!」
「わたしも! ふゆにいろんないろのパンジーがさいたらきれいだろうね!」
「せんせい、メモできた!?」
「バッチリだよ!」
職員も、理玖の話を聞いてたらしい。
ペンを片手に、メモを取っている。
「すみません。他にも、育てるためのコツがあったら教えてもらえますか?」
「……水をあげる時は、気温の低い早朝や夕方は避けてください。土が凍るから」
「なるほど!」
「……他にも、育ちやすい土とか肥料のこととか色々あるけど、予算の問題もあると思うから後は自分で調べてください」
「ありがとうございます! みんな、後でちゃんと調べておくね! 来年の今頃には、綺麗なパンジーのお花を咲かせられるように頑張ろう!」
「「「おー!!」」」
どうやら、話は纏まったようだ。
「……行こう」
大和と美海を促し、理玖はその場を離れようとする。
「キレイなおにいちゃん、おしえてくれてありがとう!」
「わたしたちちゃんとおせわするから、お花がさいたら見にきてね!」
「……わかった。頑張って。……行こう」
「うん! みんな、ばいばーい!」
「みうちゃん、やまとくん、ばいばい!」
「またあしたねー!」
理玖は、今度こそ二人を連れて庭を後にした。
少女たちが、花に興味を示してくれたからだろうか。
帰り道の理玖の表情は、いつもよりも少しだけ嬉しそうに映ったのだった。
春原理玖がお迎えに行ったら――――植物博士!+綺麗なお兄さん☆