兄として、人として
「……彼女、どうしたの」
案の定、理玖はすぐにやって来た。
急にコースを離れていった蒼一朗の様子が気になり、既に近くまで来ていたようだ。
他の皆も一緒である。
「急に倒れたんだ! 声をかけてみたけど意識はねぇ! 体がすごく熱い……!!」
「救急車は先程呼んだので、もうすぐ来ると思います。それまでの間に、何かできることはありませんか?」
「……恐らく熱射病だろう。もう救急車を呼んであるなら、救護室に運ぶのは無駄足になってしまうね。誰か、タオルを濡らしてきてくれないか。持っているタオル、全部使っていいから。君には、彼女の身元を調べてほしい。家族がいるようなら、病院に来てもらうように連絡して」
理玖は、皆にてきぱきと指示を出していく。
「……救急車には、僕が一緒に乗る」
「俺も……!」
「……柏木くん、待って」
“一緒に行く”と言いかけた蒼一朗の肩に、恵輔が手を置く。
促された方向を見ると、そこには青ざめた表情をしている大和の姿があった。
その隣には、恵輔のコースアウトを不審に思いこの場に駆けつけていた隼輔もいる。
彼の顔色もまた、大和同様に優れないものだった。
目の前で人が意識を失っているのだから、幼い二人が動揺するのも無理はない。
「僕たちがするのは、救急車に同乗することじゃないんじゃないかな」
「……そうっすね。俺はここに残る。救急車には誰か別の奴が乗ってくれねえか」
先程言おうとした言葉を飲み込み、蒼一朗はそう言う。
「じゃあ、柊平さんお願いできる?」
「かしこまりました」
こうして、救急車には理玖と柊平が乗ることが決まった。
蒼一朗と恵輔は各々の弟のもとに駆け寄ると優しい言葉をかける。
「兄ちゃん!! ばあちゃん死なないよな!?」
「大丈夫だよ、隼輔。すぐに救急車も来る。ちゃんと助かるさ」
「大和、安心しろよ。絶対に助かる。兄ちゃんが嘘ついたことなんてないだろ?」
「………………………………」
大和はこくりと頷く。
信頼する兄が近くで励ましてくれたことによって、二人の顔色は徐々に回復していった。
数分後に救急車も無事に到着し、老婆は病院に搬送されたのだった。