雪花見酒
そのやり取りから十分も経たないうちに、静かに雪が降りはじめた。
「おぉ! 本当に降ってきおったぞ! こんな季節に雪など珍しいとは思っていたが、さすが一色殿ですな!」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
透花の言葉を聞き、傘を受け取っていた王は雪に濡れずに済み、先程よりも上機嫌になっていた。
透花の言葉を聞かず、傘を受け取らなかった者は今更置いてある傘に手を伸ばすことも出来ず、気まずそうな顔をしてその場に佇むだけだった。
ここで王は、あることに気付く。
「……わしらはこうして傘のおかげで濡れずに済んでいるが、他の者たちはどうしている? 民衆が皆濡れているのに、わしだけが傘の下にいるというわけにはいかないだろう」
そして、傘から出ようとする。
「そのことでしたら、ご心配なく。先程、皆に傘をお配りするよう部下に指示を出してまいりました。ほとんどの民には、傘が届けられているはずです」
「そ、そうか……? しかし、何やら騒がしいようだが……」
透花の言葉を聞いても、王はどこか落ち着かない様子だ。
「トラブルにもその都度対応するように言っておきましたので、大丈夫です。それよりも、王様。雪が降る中のお花見など、なかなかできるものではありません。今はこの風流な景色を楽しみませんか?」
その言葉に、王は改めて景色に目を向けた。
雪が降る中、舞う桜の花びら。
それは、なんとも幻想的な美しさだった。
「……ふむ、では、一色殿の言葉に甘えるとするかの。誰か、酒を持ってまいれ!」
透花もその景色に目を向けながら、先程自分が出してきた指示を思い出していた。