今日という日を、歴史的な一日に
「この度は、本当に申し訳ありませんでした……!」
「……リヒト、いいんだ。顔を上げてくれ」
心と透花の姿が見えなくなると、リヒトはすぐさまシヅキへと謝罪した。
他の部下たちの目があるにも関わらず、額が地につきそうなほどに頭を下げる。
国のためを思い、心の意思を無視してここまで連れてきてしまった。
だがそれが、心だけではなくシヅキのことも苦しめる行為だとようやく気付かされたのだ。
「……私ならば、どのような罰も受けます。王のお好きなようになさってください……」
「……リヒト、言ったな」
シヅキはいつまでも頭を上げないリヒトの肩を掴むと、無理矢理自分の方を向かせた。
その口から吐き出される言葉が恐ろしく、リヒトは視線を上げることが出来なかった。
「お前には、私の新しい国作りに協力してもらう」
「………………………………え?」
それは、リヒトの予想とはかけ離れた言葉だった。
王を謀ったのだから、良くても国外追放、最悪の場合極刑に処される覚悟もしていたのだ。
「さっき心に言った通り、私はこの国を変えていきたいと思っている。国民からも意見が出ているんだ。ヴォルカンは、このまま閉鎖的で良いのかと。時代に合わせて、私たちも変わっていかなければならないのではないかと。……なかなか一歩が踏み出せなかったが、今がその時だと思うんだ。リヒトが愛する国の形ではなくなってしまうかもしれないが……」
「……そんなことはありません! 私で良ければ、喜んで……!!」
「そうか。それじゃあ、よろしく頼むな」
そう言って笑ったシヅキの顔は、どこか少年のようにも見えた。
(……この笑顔を守るために、私は存在しているのだ。国のためとはいえ、この方が笑っていなければ何の意味もない。この方こそが、国そのものなのだから……)
リヒトは、シヅキが心と二人きりで話している時に透花にかけられた言葉を思い出していた。
『あなたの詳しい事情は私にはわかりません。でも、そんなに暗い顔をすることはないと思いますよ。心くんのお父様だから、とても器の大きな人なんでしょうね。あなたが竜王様とこの国の今後を考えて実行したと、きっと伝わっているはずです』
先程まで戦っていた相手に対し、ここまで温かな言葉をかけてくれる。
リヒトはこれを聞き、自分と透花の格の違いを思い知ったのだった。
それと同時に、自分にとって最も大切なものを思い出すことも出来たのだろう。
「それでは、早速会議を行う。新たな国作りに反対する者も大勢いるだろう。決めなければならないことも山程ある。忙しくなるぞ。リヒト、ついてこい!!」
「はっ!」
こうしてヴォルカンは、新たな道を歩き出すこととなる。
この王の理想が現実となるのは、そう遠い日のことではないのかもしれない――――――――――。