空白の時間を埋めるように
「……だから、僕たちはお母さんと離れて暮らしてるんだよ」
「そう、だったのか……」
お父さんがいなくなってから、僕たちの生活は辛いものだったこと。
村の人に殺されそうになったところに透花さんが現れて、助けてもらったこと。
もっと広い世界を見るために、村を出て王都で暮らし始めたこと。
……そして、お母さんは今もあの家でお父さんが帰ってくるのを待ってること。
僕は、全部を包み隠さずに話した。
そうしたら、お父さんの目からは涙が流れてたんだ……。
「……お父さん? 泣いてるの……?」
「心っ……! 本当にすまなかった……!!」
強いお父さんが泣くのなんて、初めて見た……。
どうすればいいのか、わからないよ……。
「お前には、辛い思いをさせて……!」
「……ううん、いいんだ。だって、今の僕は幸せだから」
「……一色殿が、家族を守ってくれたんだな」
「うん。……今度はお父さんの番だよ。なんで、僕を無理矢理あの家から引き離そうとしたのか教えて。……僕も美海も、あそこでとっても幸せに暮らしてるんだ」
「……それに関しても、謝らなければいけないな。一色殿のことを、誤解していた……」
お父さんは、なんでこんな強硬手段をとったのかを説明してくれた。
僕が、透花さんに酷い目に遭わされてるって思ってたなんて……。
じゃあ、お父さんは僕と美海のために今回のことをしたの……?
(……そっか。よかった)
……僕の知ってる、優しいお父さんのままだ。
そのことは、僕をとても安心させた。
「……よく考えれば、分かることなんだ。私は一色殿と、言葉を交わしたことがある」
「え……?」
「芯が強く、今までに会ったことのない人間だと思った。だからあの時は、引いたんだ」
「あの時って……? いつの話……?」
「だが、ヒトは変わっていくものだ。私は彼女を、そこまで信用できなかった……」
お父さんは、とても辛そうに呟く。
……僕は、透花さんと一緒に王都に帰る。
次にお父さんに会えるのは、いつかわからない……。
……誤解が解けたんなら、少しでも楽しい話がしたいよ。
「……お父さん、僕は大丈夫だから。この話はおしまいにしよう」
「しかしっ……!」
「さっきも言ったけど、僕、今とても幸せなんだよ。毎日が、楽しいこと、おいしいものでいっぱいなんだ。僕は、その話をもっとたくさん聞いてほしいよ」
「………………………………!! ……そうだな。お父さんも、もっと心の話が聞きたい」
「じゃあ、なんの話からしようかな……。あっ、この間学校でね……」
こうして僕は、お父さんにたくさん話を聞いてもらった。
おしゃべりは苦手だけど、聞いてほしい話がたくさんあったから……。
お父さんも、僕にいろいろな話をしてくれたよ。
空白の六年間を埋めるように、僕たちは何時間も語り合ったんだ――――――――――。