緊急事態
黄組のアンカーが一位でゴールテープを切った瞬間、その組の優勝が決まった。
黄組の応援席は、喜びの声に満ち溢れている。
しかし、残りの三組がゴールしても蒼一朗と恵輔は戻ってこなかった。
彼らは少し離れた木の根元で、一人の老婆に寄り添っていたからだ。
「ばあさん! おい、大丈夫か!?」
走りながら蒼一朗が視界に捉えたのは、気分が悪そうな年配の女性だった。
急いで彼女の近くまで行き声をかけたが、意識が朦朧としているようで返事がない。
一人で来たのか、近くに身内の者もいないようだ。
(体がすげー熱い……!!)
倒れ込みそうになった彼女を、蒼一朗は慌てて支える。
「……病人かい!? 待ってて、すぐに救急車を呼ぶから……」
「部長、なんであんたまでここに……」
「そんなこと、今はどうでもいいだろ! あっ、こちら地域運動会が行われている運動公園です。年配の女性が一人倒れています。至急、救急車をお願いします」
所属している部隊のルールとして、恵輔はいついかなる時も外部との連絡手段を絶やさないようにしていた。
さすが通信兵だ、手慣れたものである。
「今、救急車がこちらに向かってるそうだよ。それまでに応急処置として、僕たちに何かできることがあればいいんだけど……」
「……それなら、うちの隊の医者に頼んだ方が正確だと思う。今日、一緒に来てんだ。連絡したいから、それ貸してくれねえか?」
「勿論だよ」
蒼一朗は恵輔から通信機を借りると、すぐに透花に連絡をし理玖を呼んでもらった。
幸いなことに今いる場所と白組の応援席はそれほど離れていないので、すぐに来てくれるだろう。