あったかい憧れ
「いけません! 王であるあなたが、人間の小娘に頭を下げるなど……!」
「……リヒト、少し黙っていてくれないか。私は、自分の過ちを認めても頭を下げられないほど傲慢ではないんだ。……お前なら、わかってくれるだろう」
「……申し訳ありません。出過ぎた真似を、いたしました……」
リヒトさんは、お父さんが頭を下げるのをやめさせようとした。
でも、覚悟を決めたお父さんを止められる人は誰もいないみたいだ。
「一色透花殿、改めて謝罪させてほしい。この度は、本当に申し訳ないことをした」
「いえ、竜王様が謝るようなことは何もないです。先程も言ったように、正当防衛とはいえあなたの仲間を傷付けたことは事実ですから。こちらこそ、申し訳ありませんでした」
「……あなたが何の理由もなしにこのようなことをする人間ではないと、心への態度を見てわかった。……何があったのか、教えてもらえないか?」
「わかりました。では、簡単になってしまいますがご説明させていただきますね」
透花さんは、ここ数日の間に起こった出来事を話し始めた。
自分が任務を終えて屋敷に戻ると、仲間たちが傷付き、僕がいなかったこと。
傷付いた仲間から聞いた話によると、僕のお父さんの遣いの者が来たということ。
その遣いの者と戦った仲間が、僕を竜人の子だと指し示すヒントをくれたこと。
竜人についていろいろ調べていたところに、この国の使者たちがやって来たこと。
その人たちと一緒に国まで来たら、突然竜人たちの襲撃を受けたこと。
大切なものを守るために、どうしても相手を傷付けなければならなかったこと……。
お父さんは、透花さんの話を静かに聞いてた。
「……やはり、私が思っていたような人物ではないんだな」
お父さんがぽつりと何か言った気がしたけど、それを聞き取ることは出来なかった。
「私はあなたのことを誤解していたようだ。謝って許されるようなことではないが、何度でも言わせてほしい。本当に、申し訳ないことをした……!」
「竜王様、その言葉は私ではなく心くんにかけてあげてください」
急に名前を出されたことにびっくりしてると、二人の視線が僕に向く。
「心くんは、ここ数日で色々と辛い思いをしたと思います。……私は、こんなにやつれている心くんを始めて見ました。ちゃんとご飯は食べた?」
「……食べてない。お腹は空いてるのに、どうしても食べる気になれなかったから……」
「……うん。夜は眠れた?」
「……寝たけど、いつもみたいによくは眠れなかったよ」
「心……! 本当にすまなかった……!!」
僕の体が、あったかくておっきなものに包まれる。
透花さんとは全然違う、ごつごつしてて頼もしい感触。
……うん、僕はこれを知ってるよ。
だってこれは、僕が昔からずっと憧れていたものだから……。
「お父さん……」
僕の体は、お父さんに抱き締められていた。
この国に来た時、お父さんの背中が小さくなったように感じたけど……。
(……違う、お父さんが小さくなったんじゃない。僕が、大きくなったんだ……)
そんなことを考えながら、僕は自分の腕をお父さんの背中に回した――――――――――。