最後に見えたのが、あなたの顔でよかった。
僕が部屋でぼーっとしてると、急にお城の中の空気が変わった。
(この、優しくてあったかい空気は……。僕は、この人を知ってる……!)
……間違えるはずがない。
これは、僕が安心して眠るために必要なもの。
(透花さんが、ここに来てる……!)
なんで、この国に来たんだろう……?
透花さんに会って、僕はどうするんだろう……?
いろんな考えが頭を過ぎったけど、今はそんなことどうでもいい……!
(行かないと……!)
透花さんに会うために、僕は部屋を飛び出した。
部屋の外には、特に見張りの人はいなかった。
僕はお城の中を、他の人に見つからないように移動していく。
(今日は、一昨日よりも人が少ない……?)
そのせいか、誰にも見つからずに歩くことができたんだ。
透花さんの気配がする建物に近付いていくと、少しずつ空気が変わっていく。
(透花さん、怒ってる……?)
……優しくて、あったかいだけじゃない。
透花さんの怒りで震える大気が、建物の外にいる僕まで伝わってくる。
……でも、不思議だよね。
僕にとっては、全然怖い空気じゃないんだ。
僕が闘技場みたいな建物の中に入ると、そこでは透花さんが戦ってた。
リヒトさんみたいなドラゴンを、何十匹も相手にして……。
透花さんは攻撃をひらりひらりと避け、仲間同士を衝突させている。
すごい勢いでぶつかった竜たちは、すぐに立ち上がることができないみたい……。
なかなか攻撃が当たらないことにイライラした一匹の竜が、たくさんの火の玉を吐く。
それは、透花さんを狙ってというよりも、無差別な感じだ……。
「あ……」
一つの火の玉が、僕に向かってくる。
その瞬間、驚いた表情の透花さんと目が合ったんだ。
透花さんはこの時に初めて、僕がここにいることに気付いたみたい。
「心くん、避けて…!」
ごめん、透花さん……。
足がすくんじゃって、僕、避けられないみたい……。
でも、最後に透花さんの顔が見れてよかった……。
「来てくれて、ありがとう……」
僕はそう言うと少しだけ笑って、静かに目を閉じた――――――――――。