策士策に溺れる
「今回の任務について説明します」
リヒトは、とある部屋に屈強な四人の男を集めていた。
この四人は、透花と接触するために図書館を訪れた輩である。
「王都に住む一色透花という女性をこの国までエスコートすること、それが今回あなたたちにやってもらうことです。……ですがこれは、あくまでも表向きの任務に過ぎません」
そう言うとリヒトは、鋭い視線を部下たちに投げかける。
「本来の任務は、この女を始末することです」
男たちは、リヒトの言葉に静かに耳を傾けている。
戦争をしている彼らからしたら、人間の女性を殺めるなど容易いことなのだろう。
「王都でも、この国でも構いません。自分たちに有利な場所で、彼女を始末しなさい。人目を気にかけて、あなたたちの仕業だと悟られるような証拠を残してもなりません」
男たちは、ごくりと息を呑む。
ただ命を奪うだけではなく、証拠も残さないとなると難易度が跳ね上がるからだ。
「簡単な作戦は私が考えておいたので、これに従ってください。まず、彼女に接触する役目は二人です。残りの二人は、絶対に彼女に姿を見られないように。彼女にこの国に来てほしい旨を伝えながら、隙を探りなさい。その場で実行出来そうだったら、やってしまって構いません。ですが、隙がなければそのまま彼女を連行してください。この国で手をかけた方が、こちらの戦力的にも有利ですし証拠も隠滅しやすいので。これも、先程言った通りに必ず二人で行ってください。残りの二人は、彼女がこの国に向かったのを確認した後に、彼女の屋敷の監視についてもらいます。これは、何かが起こった時の保険ですね」
リヒトの策は、こうだ。
まずは部下たちが、王都で透花に接触する。
その場で、透花の殺害が可能ならば実行する。
だが、不可能だと感じた場合、場所を王都からこの地へと移す。
ここならば、充分な戦力と作戦で彼女と相対することが出来るからだ。
屋敷の監視は、不測の事態が起こった時の保険のようなものだろう。
彼女を始末した後に、シヅキと心には透花が今回の招待を受けなかったと伝える。
そうすれば、シヅキには悪印象を抱かせ、心には帰る場所がないと思い込ませられるはずだ。
「もしこの国まで連れ帰るならば、他の者たちに会わないようにまずは私のところに連れてきなさい。絶対に、王やその御子息の目には触れないように。……わかりましたか?」
リヒトの問い掛けに、男たちは真剣な表情で頷いた。
「それでは、よろしくお願いします。出発は明朝です」
用件のみを伝えると、リヒトは部屋を出る。
彼はまだ、気付いていないのだ。
自分の計画が、失敗するということを。
ターゲットとなる女性が、想像よりも強大な力を秘めていることも――――――――――。