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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十五話
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私の守りたいものは

「……リヒト、少しいいか」

「はい、なんでしょう」


 シヅキが訪れたのは、もう深夜だというのに未だに仕事をしているリヒトのもとだ。


「お前に、聞きたいことがあるんだが……」

「なんなりとお聞きください」

「……俺に渡した、一色透花の調査書に記されていた内容は全て事実か?」


 これが、心とシヅキの間の言い分が噛み合っていない原因だった。

 シヅキは、自分の右腕であるリヒトに心と美海の生活について調べさせた。

 彼らは何不自由ない生活を送っていたが、リヒトは虚偽の報告をしたのだ。

 『一色透花は、まだ学生という身分である御子息に重労働を強いている。御子息は、学校の時間以外は働かされきちんと眠ることすら出来ていない。御息女を人質に取られているため、抵抗しようとする気力も湧かないようだ。それにも関わらず、働いた分の給料は全て取り上げられ、貧しい生活を送らされている』

 これが、リヒトの報告した内容だった。

 もちろん、これらは全てでたらめである。

 心は休日に仕事に出ることもあるが、それはお小遣いや母への仕送り資金を稼ぐためだ。

 自分と妹の衣食住、そして心の平穏は、透花によって守られている。

 学費と生活費を透花に出してもらっているので、その他のところは自分の力でどうにかしたいと思う故の行動だった。

 それをリヒトは、上記のように歪曲して伝えたのだ。


「はい、勿論でございます。私が王に虚偽の内容を報告するなどありえません」

「……そうだよな。変なことを聞いて悪い」

「いえ。……私を疑っておいでなのですね」

「……すまない」


 リヒトが嘘を吐いたのには、理由がある。

 現在戦争をしており、王子の心が国に戻れば皆の士気が上がるという話は事実だ。

 しかしそれ以上に、彼はこの国の今後を案じていた。

 基本的に世襲制が適用されるため、次の王は王と血の繋がる子どもでなければならない。

 だが、シヅキには子どもがいないということになっていた。

 人間の血が混ざった子どもを、次の王とは認められないからだ。

 リヒトは、シヅキに何度も提案している。


「王よ、竜人の女性との間に世継ぎを残されましょう」


 だが、返ってくる言葉はいつも同じだった。


「私の愛した女は、妻だけだ。子どもも、心と美海だけだよ」


 そんな折に、他の竜人の国との戦争が起こった。

 もしシヅキがこの戦いで命を落とすようなことがあれば、この国は終わってしまう。

 優先されるべきは、国の存続。

 そのためには、子どもに人間の血が混ざっていることに目を瞑るしかない。

 そう考えたリヒトは、今回の計画を実行したのだ。

 王の血が濃い心をどうにかして国に引き入れ、ここで王子としての生活を送ってもらう。

 そうすれば直に、一色邸への執着は薄れていくだろう。

 心が一緒に暮らしていたのは、所詮他人である。

 だが、ここにいれば本物の家族との暮らしが出来るのだ。

 彼は必ず、この国の方がいいと思うようになるとリヒトは考えている。

 それまではシヅキと心の接触を断った方が良いのだが、一家臣である自分が王の行動を制限することは許されない。


(……この様子からすると、既にシン様に会いに行かれたのですね)


 リヒトは、目の前のシヅキの姿を見ながら思う。

 謝ったシヅキは、なんともいえない悲しそうな表情をしていた。

 リヒトはただの家臣というだけではなく、昔は幼馴染だったのだ。

 そんな彼を疑っている自分が情けない、だが心の様子がおかしいのは気になる。

 そのような気持ちが拮抗している表情に、リヒトには見えた。


「明日、直接シン様に聞かれてみてはどうですか。一色透花とは、どういう女なのかを」

「……そうだな。今日は碌に話も出来なかったから、明日は親子らしい会話をしたいんだ」

「では、今日はそろそろお休みになってください」

「ああ。お前も、きりのいいところで終わりにして寝るように」

「はい。お心遣い感謝いたします」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 部屋を出て行くシヅキの背中を見送りながら、リヒトは溜め息を吐いた。


(王がシン様に話を聞いても大丈夫だ。……まだ私には、策があるのだから)


 リヒトはシヅキの言葉を聞かずに、この後も仕事を続けた。

 彼が眠りに就いたのは、空が白み始めた頃だったという――――――――――。

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