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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十五話
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一人の父親として為さねばならぬこと

 夜も更けた頃に、心の部屋を訪れる者がいた。

 この国の王であり、心の父親でもあるシヅキだ。

 本日の公務を終え、少しでも心と話が出来ればと思いやって来たのだ。

 だが、残念ながら心は既に眠ってしまっている。


(毛布もかけずに、こんな場所で……)


 床で寝てしまった心を軽々と抱き上げると、ベッドまで運ぶ。

 マットレスに心を下ろすと、優しく毛布をかけた。

 そこで、心の手に何かが握られていることに気付く。


(これは……)


 それは、心の唯一の持ち物である写真だった。

 そこには、心だけではなく美海、そして知らない者たちの楽しそうな姿が写っている。


「と、うかさん……。ぼく、かえりたいよ……」


 心が瞳を閉じたまま、ぽつりと呟いた。

 だが、起きている様子はない。

 どうやら、寝言のようだ。

 心の目尻から、音もなく涙が流れ落ちた。

 シヅキはそれを、静かに拭い去る。


(どういうことだ……。何か変だ……。心は、本当に洗脳を受けているのか……? それならばなぜ、泣くほどあの女を恋しがる……? 解放されて、どうして喜ばないんだ……?)


 心と会った時から感じていた違和感が大きくなっていくのを、シヅキは感じる。

 自分が聞いていた透花と、心が話す彼女は全く別人のようなのだ。


(……父親として、こんな状態の息子を放置することは出来ない)


 心が持っていた写真を、枕の横に丁寧に置く。

 そして、毛布の上から優しく心を撫でると、彼は部屋を出て行った。

 一国の王としてではなく、ただの父として、確認しなければならないことが出来たのだ――――――――――。

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