一人の父親として為さねばならぬこと
夜も更けた頃に、心の部屋を訪れる者がいた。
この国の王であり、心の父親でもあるシヅキだ。
本日の公務を終え、少しでも心と話が出来ればと思いやって来たのだ。
だが、残念ながら心は既に眠ってしまっている。
(毛布もかけずに、こんな場所で……)
床で寝てしまった心を軽々と抱き上げると、ベッドまで運ぶ。
マットレスに心を下ろすと、優しく毛布をかけた。
そこで、心の手に何かが握られていることに気付く。
(これは……)
それは、心の唯一の持ち物である写真だった。
そこには、心だけではなく美海、そして知らない者たちの楽しそうな姿が写っている。
「と、うかさん……。ぼく、かえりたいよ……」
心が瞳を閉じたまま、ぽつりと呟いた。
だが、起きている様子はない。
どうやら、寝言のようだ。
心の目尻から、音もなく涙が流れ落ちた。
シヅキはそれを、静かに拭い去る。
(どういうことだ……。何か変だ……。心は、本当に洗脳を受けているのか……? それならばなぜ、泣くほどあの女を恋しがる……? 解放されて、どうして喜ばないんだ……?)
心と会った時から感じていた違和感が大きくなっていくのを、シヅキは感じる。
自分が聞いていた透花と、心が話す彼女は全く別人のようなのだ。
(……父親として、こんな状態の息子を放置することは出来ない)
心が持っていた写真を、枕の横に丁寧に置く。
そして、毛布の上から優しく心を撫でると、彼は部屋を出て行った。
一国の王としてではなく、ただの父として、確認しなければならないことが出来たのだ――――――――――。