ああ、届かない
「今日から、ここが心の部屋だぞ」
「………………………………」
お父さんが案内してくれたのは、とても立派な部屋だった。
ベッドも豪華だし、高そうな壷とかがたくさん置いてある……。
お父さんが王様で、僕が王子っていうのはほんとなんだ……。
……でも僕には、こんなに広いベッドなんて必要ない。
美海と、ぱかおと、仲良く三人で眠れるスペースがあればいいんだ。
それに、壷の良さなんてわからないし……。
……透花さんがくれたハンモックの方が、僕にとっては何倍も価値のある物だよ。
「……心配しなくても大丈夫だ。すぐに美海も連れてくる」
「……やめてよ! 僕がいればいいでしょ!? 僕がちゃんとするから……!」
何を勘違いしたのか、お父さんは僕にこんなことを言った。
美海は、絶対に僕が守るんだ……!
大きな声で訴える僕を、お父さんはやっぱり不思議そうな顔で見てる。
「心、本当にどうしたんだ? あんな場所に美海だけを残してきて、不安じゃないのか?」
「あんな場所って、なに……? あの家のことなんにも知らないのに、勝手なこと言わないでよ……! あそこには、幸せがたくさんつまってるんだ……!」
「シン様は、あの女から 洗脳を受けているようです。ですから、このようなことを仰るのでしょう。医者に診せて、洗脳を解かなければなりません」
「……そのようだな。心、お前はここにいなさい。必ず、お前を正常に戻してやるから。美海も、すぐにこの国に連れてこよう。お前が心配することは、何もないんだ」
「王よ。そろそろ行かないと、会議に遅れるのではないでしょうか」
「……ああ。心、また夜に来るから。ここで大人しくしているんだぞ」
「待ってよ……! 僕は洗脳なんてされてない……! 話を聞いて……!」
僕の言葉に耳を貸さずに、お父さんはリヒトさんと一緒に部屋を出て行ってしまう。
なんで、こんなことになっちゃったの……?
リヒトさんの話は聞くのに、どうして僕の声は聞いてくれないの……?
絶望に突き落とされた僕は、目の前が真っ暗になっていくのを感じた……。