失ったものを取り戻せたのは
「心! よく来たな!」
「………………………………」
お父さんは、僕のことをぎゅっと抱き締める。
……でも、全然嬉しくない。
お父さんがいなくなってから、残された家族はひどい目に遭った。
今度はお父さんが呼んだから、僕はあの家を離れなくちゃダメになった……。
……全部、お父さんのせいだ。
抱きしめられても、嬉しいはずがない……!
「……触らないで」
「心……? どうしたんだ……?」
「………………………………」
手を振りほどいた僕を、お父さんは不思議そうな目で見てる。
そして、僕の周りを見渡してからこう言ったんだ。
「……リヒト、美海はどうした?」
「美海様は、残念ながら連れて戻ることが出来ませんでした」
「なんだと……!? もしかして、あの守銭奴の女の妨害に遭ったのか!?」
守銭奴の、女……?
透花さんのことじゃないよね……?
あの人のことを、そんな汚い言い方で……!!
「透花さんのことを、そんな風に言うな……!」
透花さんは、僕と美海のことを大切にしてくれてる……!
僕も美海も、透花さんのことが大好きなんだ……!
お父さんのせいで失ったものだって、あの人のおかげで色々取り戻せたのに……!
怒るなんて普段はしないのに、お腹の底から怒りが込み上げてきてしょうがなかった。
お父さんは僕のことを、怪訝な表情で見ている。
「……何を言っているんだ。お前たちは、あの女に……」
「王よ、国に到着したばかりでシン様もお疲れでしょう。そのせいで、混乱しているのかもしれません。ゆっくりと休息をとっていただくのが良いかと思います」
「……それもそうだな。心、こちらに来なさい。お前のために、部屋を用意してある」
お父さんの言葉を遮ったのは、リヒトさんだ。
リヒトさんの言うことに納得したお父さんは、僕に背中を向けて歩き出す。
……僕は、この国で暮らすって決めたんだ。
美海と、みんなの穏やかな生活を守るために……。
……そのためなら、なんだって我慢してみせる。
僕は、お父さんの背中を追いかけて歩き始める。
その背中は、前よりも小さくなった気がした……。