もう少しだけ、待っていて
「私たちと一緒に来てもらう」
「そなたに拒否権はない」
「拒否するつもりなどありません。でも、一つだけいいでしょうか?」
「なんだ」
「言ってみろ」
「あと二人、いらっしゃるようですが。隠れていないで出てきたらどうですか」
透花が笑顔で放った言葉を聞いて、男たちの間に一気に緊張感が走る。
「……なんのことだ」
「私たちは、二人で来た。他に仲間などいない」
「そうですか。私から見て、右に二つ目の本棚の後ろ、左に三つめの本棚の前。そこにいるのはあなたたちの仲間ではないと仰るのですね」
「「………………………………!!」」
透花は、男たちの位置まで把握しているらしい。
単に鎌をかけたというわけではなさそうだ。
それでも黙っている二人の男に、透花は更に言葉を紡ぐ。
「ここからは、私の予想になります。あなた方二人が私を国まで誘導する役目、そして残りの二人が私の屋敷を見張る役目を与えられているのでしょう。不測の事態が起こった時に、仲間たちの命を握っているというアドバンテージを得たいがために。……心くんを連れ去られたこと、仲間を傷付けられたことに、私はとても怒っています。あなた方がその気なら、私も黙ってはいないですよ。……よろしいですか?」
透花を取り巻く空気が、穏やかなものから怒りを孕んだものへと変わる。
((この女、ただの人間ではない……!!))
それは、目の前の男たちにも充分に伝わったようだ。
「……おい」
「……わかった」
男の一人が、もう一人に指示をする。
どうやら、他の仲間たちを呼びに行ったらしい。
透花が言った内容は、全て図星だったようだ。
男たちが全員揃ったのを確認すると、透花は再び口を開いた。
「では、行きましょうか。あなたたちの国に案内してくださるのですよね。もちろん、ここにいる全員で。私は、自分の仲間に危害を与える可能性がある存在を見過ごせませんから」
その笑顔に、全員の背筋が凍る。
目の前の女の笑みは、あくまでも艶やかなものだ。
だが彼らの細胞の一つ一つが、彼女に逆らえない、逆らってはいけないと告げている。
「……わ、わかった。この土地に、我らの仲間を残しはしない」
「理解していただけてよかったです。では、道案内よろしくお願いしますね」
透花の華奢な体から出たとは思えないほどの迫力に、彼らはいつの間にか頷いていた。
リヒトから、二人は一色邸を見張るように言いつけられていたにも関わらずだ。
(心くん、もう少しだけ待っていてね。今、行くから)
こうして透花は、竜人たちの住む国へと向かうことになったのだった――――――――――。