言葉は伝わらなくても
心が屋敷を去ってから二日が経ったが、透花は未だに何の手掛かりも掴めずにいた。
湊人の手を駆使しても、一片の情報すら出てこないのだ。
「こんなに情報が出てこないなんて……。その人、ほんとに人間なの?」
しまいには、このように言われてしまう始末である。
透花はこの日、ぱかおが眠っている心の部屋を訪れていた。
一命を取り留めたものの、意識が戻っていないのだ。
(……なんて、無力なんだろう。心くんにも、美海ちゃんにも、何もしてあげられない)
悔しさから、無意識の内に手を強く握ってしまう。
いつの間にか、掌には血が滲んでいた。
それを、温かく柔らかなものが拭ってくれる。
「ぱかお……。目が覚めたの?」
傷付いた彼女の手を、ぱかおの舌がゆっくりと舐めていたのだ。
自分の方が傷だらけなのに、透花の傷を懸命に癒そうとしている。
「……ぱかお、ありがとう。私なら大丈夫だから、ゆっくり休んで……」
ぱかおを再び寝かしつけようと、透花は背中をゆっくりと撫でる。
だがぱかおは、瞼を閉じずにじっと透花のことを見つめていた。
その瞳は、一生懸命に透花に話しかけているのだ。
「……私に、何か伝えたいことがあるんだね」
ぱかおの視線が透花から外され、部屋の一角に向けられる。
そこには、湊人と勝負する時に使用する将棋盤が置いてあった。
「将棋盤を持ってきて欲しいの? 少し待っていて。すぐに持ってくるから」
透花が将棋盤と駒を持って戻ると、ぱかおはよろよろと立ち上がった。
駒台の中に顔を突っ込み、何かを探しているようだ。
しばらくして、目当ての駒を見つけたぱかおはそれを口に銜え透花に見せる。
「これは……」
ぱかおが取り出したのは、飛車の駒だった――――――――――。