表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十四話
563/780

偽りの平穏

「おはよー!! おなかすいたー!」


 心がリヒトによって連れ去られた翌朝、美海はいつも通り元気に起きてきた。

 兄がいない食卓を見ても不思議に思わず、にこにこと笑う。


「しんにい、きょうからがっしゅくだったよね! ちゃんとおきれたかな?」


 昨日の記憶がなかったかのように振る舞う美海に、疑問を持つ者はいない。

 明け方に一度目を覚ました美海を理玖が診察したところ、一連の出来事に関する記憶が混乱しておりあやふやだということが判明したのだ。

 美海を心配させないように、”心は昨日から泊まり込みで部活の合宿に行っているため、しばらく家には戻らない”と伝えた。

 美海はそれをすっかり信じているので、いつもと変わらない朝を送っているのだ。


「し、心配しなくても平気だぜ! みんな一緒なんだから、誰か起こしてくれるって!」

「そうだよ~。学校に泊まり込みとか、すごい楽しそうだよね~☆

「そう? 僕は、こんな朝から練習するなんて嫌だけどなぁ」

「きょ、今日の朝ご飯はパンなんです。食パンとクロワッサンどっちがいいですか?」

「う~ん、クロワッサンにするー!」


 このことが他の隊員たちにも伝わっているため、皆もいつも通りに振る舞っている。

 昨日リヒトと対峙した柊平、蒼一朗、理玖の三人は口数が少ないが、普段からそれほどおしゃべりな方ではないため美海も疑問を持たないようだ。


(……とりあえず、よかった。心くんがいないことに、美海ちゃんは責任を感じていない。……美海ちゃん、ごめんね。もう少しだけ、私に時間をちょうだい)


 隊員たちには、美海は記憶が混乱していると伝えられたが、これは完璧な真実ではない。

 心が連れ去られたことを覚えていれば、間違いなく美海は自分を責めるだろう。

 そう考えた透花は、寝起きでぼんやりとしている美海にとある薬を飲ませたのだ。

 その薬の効能は、一時的な記憶置換だ。

 これを飲んだことで、昨日の苦しい記憶は美海の中から消え去っている。

 心と出かけた後に、いつも通り帰宅し晴久が作ってくれたおやつを食べた。

 そんな、よくある休日を過ごしたことになっているのだ。

 だが、この薬の効果はいつまでも続くものではない。

 ある日突然、本物の記憶を思い出してしまうのだ。

 一週間も経てば、心が戻ってこないことに疑問を抱きもするだろう。


(それまでに、なんとか心くんを探し出さないと……)


 自分が指示したこととはいえ、笑顔を浮かべる美海を見て透花の心が痛む。

 心を絶対に取り戻すという決意を胸に、透花は朝食のベーコンを口に運ぶのだった――――――――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ