忘れたくないもの
「僕、あなたと一緒に行くよ……。だからもう、みんなのこと傷付けないで……」
僕の言葉を聞くと、リヒトさんは理玖さんから離れた。
理玖さんはさっきハンカチを落とされて、眠り薬を吸っちゃったみたいだ……。
朦朧とした意識の中で、必死に僕に呼びかけてくれる。
「彼女の許可なしに、ここを離れるなんて許されるわけがないだろう……!」
「……うん。透花さんには、理玖さんから謝っておいて。あと、今までありがとうって……」
「……そんなこと、僕の口からは絶対に言わない。どうしても言いたければ、自分で……」
理玖さんはそう言うと、意識を失ってしまった。
……今、この場で立っていられるのはリヒトさんと僕だけだ。
「さすがシン様、賢明な判断です。それでは参りましょうか」
「……待って。どうしても、二人じゃなきゃダメなの……? 美海はここに……」
「シン様が来てくださるのなら、ミウ様にはここに残っていただいて構いません。ミウ様に近付いたのも、シン様を円滑に我が国にお連れするためでしたから。私の目的は、我が王の正統なる後継者であるシン様、あなたでございます。王の血が薄いミウ様は、はっきり言ってどうでもよい存在なのです」
美海を軽んじるような発言に、僕は心の底から腹が立った。
でも、我慢しないとダメだ……。
リヒトさんの気が変わらない内に、ここを離れないと……。
「……行こう」
「荷物を纏めるくらいの時間なら待てますが、いかがいたしますか?」
「……じゃあ、五分だけ待ってて」
僕は急いで自分の部屋に戻ると、二枚の写真を手に取った。
一枚目は、美海とお母さんと写ってるもの。
二枚目は、一色隊のみんなに美海と大和くん、そしてぱかおが写ってるものだ。
これは確か、夏休みに撮ったやつだったっけ……。
ここに来てから写真はいっぱい撮ったけど、全員で写ってるのはほとんどないんだ……。
写真の中の僕は、決して笑ってはいない。
……だけど、どこか幸せそうだった。
この優しい思い出と、みんなの顔を絶対に忘れたくないから。
適当な封筒にそれを入れると、僕は急いでリヒトさんの所まで戻る。
「もう、よろしいのですか?」
「……うん」
「では、参りましょう」
リヒトさんと一緒に、僕は玄関を出る。
その瞬間、大きな何かがリヒトさんに襲いかかったんだ……。