僕が覚えているのは、あなたの顔だけじゃないんだ。
「シン様とミウ様は、お父様の生まれについて聞いたことがありますか?」
「……ない、けど」
「みうもないよ! りひとくん、おしえて!」
とりあえず、僕はこの人の話を聞くことにした。
お父さんの過去については、僕も気になってたから……。
「やはり、知らされていなかったのですね。あなたがたのお父様は、我が国の国王なのです」
その言葉を、僕は理解することができない。
お父さんが、王様……?
うちにいた時は、どう見ても普通のお父さんだったのに……?
「そうなの!? じゃあ、しんにいはおうじさまで、みうはおひめさまってこと!?」
「はい、そうなります」
「すごーい! ぜんぜんしらなかった! ねっ、しんにい!」
自分がお姫様だったということに、美海は興奮してるみたいだ。
だけど、僕はそんなに簡単には喜べないよ……。
「……それと、僕たち家族を捨てたことがどう関係あるの?」
「我が国は、とても閉鎖的なのです。他国と干渉することを拒み、今まで国を築き上げてきました。ですが、あなたがたのお父様は少々変わった方でして。掟を破り、当時の王子という立場を隠しながら外の世界を旅していました。……その時に、あなたがたのお母様と出逢い恋に落ちました。そして、シン様とミウ様が生まれたのです」
「……お母さんは、お父さんが王子だってことは知らなかったの?」
「国王様自身から話されたことはないようですが、訳ありの身だということは恐らく気付いていたことでしょう。十年以上、連れ添っていたのですから」
「……そうなんだ」
……お父さんの過去については、少しだけわかった。
でも、それがどうしてあの日に僕たちを置いていったことに繋がるんだろう……?
「話を続けますね。国王様の消息については、完璧に不明となっておりました。掟を破り国から出て行ったのですから、探そうという声すら上がらなかったほどです。ですが、どうしても戻ってきていただかないと困る状況に陥りました」
「その状況っていうのは、なに……?」
「当時の国王様、つまり現国王様の御父君が亡くなられたのです」
「お父さんのお父さんってことは……」
「はい。シン様とミウ様のおじい様にあたる方です」
「おじい、ちゃん……」
「我が国では、何よりも血の繋がりが重視されます。国王の息子である王子が、次の国王となることが当たり前なのです。前国王様には、現国王様以外の子どもがおりませんでした。ですから消息不明となっていた現国王様を探し出し、あの日に迎えにいったのです」
……なんとなくだけど、この人が嘘をついてないっていうのはわかる。
でもやっぱり、胸の中がモヤモヤするよ……。
……僕が忘れてないのは、この人の顔だけじゃない。
あの時に言ってたことだって、ちゃんと覚えてるんだ……。