不安を煽る冷静さ
「えっ!? りひとくんがみうたちをばらばらにしたって、どういうこと!?」
「……いいから。こっちに来て」
戸惑ってる美海の手を掴んで、僕の方に引き寄せた。
そして、目の前の相手を睨みつける。
「その様子だと、私のことを覚えているみたいですね」
「……あなたの顔を忘れたことなんて、あの日から一度もないよ」
「そうですか。それならば話は早いです。シン様とミウ様には、私と一緒に来ていただきます。よかったですね。またお父様と一緒に暮らせますよ」
「え……?」
この人は、何を言ってるの……?
あなたさえうちに来なければ、僕たちはずっと一緒に暮らせたのに……!
「……僕は、行かない。僕たちを捨てた人と一緒に暮らしたくなんてない」
「しんにい、そんなこと言わないで! お父さんが、またみうたちとくらしたいっておもったからりひとくんがむかえに来てくれたんだって! それに、お父さんのすんでるところも、ここみたいにみんなやさしいって! だから、行ってみようよ!」
美海は、なんでこんなことを言うの……?
そもそも、この人がお父さんの知り合いだって知ってたの……?
それを僕に隠して、いつも遊びに行ってたってこと……?
……僕の視線から、質問が透けて見えていたのかな。
目の前の男は、静かに口を開いた。
「誤解なさらないでください。私があなたがたのお父様と知り合いだということは、今日初めて話しました。それまでは、自分の住む場所についてなどの世間話しかしていません」
「りひとくんがお父さんの友達だなんてびっくり! すごいぐうぜんだね!」
「はい、そうですね」
それはほんとに、偶然だったの……?
美海がお父さんの娘だっていうのを知ってたから、近付いたんじゃないの……?
だって美海は、すっかり警戒心を解いてこの人に懐いてる……。
この人の言葉を信じて、お父さんと一緒に暮らしたいって言うほどに……。
「いきなり一緒に来てくださいと言っても、納得できなくて当たり前です。あなたがたのお父様の立場や、なぜあなたたち家族と離れなければならなかったのかお話しましょう」
目の前の男は、落ち着いた口調で話を進めていく。
その冷静さが、僕には不気味で仕方ないよ……。