優しい甘さに飛び込みたいよ
『しんにい? どうしたの?』
「……あ、うん。大丈夫だよ。リヒトくん、連れてきても……」
美海の言葉に、僕は一瞬頭が真っ白になってたみたいだ……。
会いたいとは言ったけど、断られたばかりだったから……。
まさか今日対面することになるなんて、思わなかったんだよ……。
『やったー! じゃあ、これから二人でかえるね!』
「……うん。気を付けてね……」
電話を切ると、僕は走ってキッチンに向かう。
いつになく焦った僕の様子に、晴久さんと理玖さんは驚いてた。
「……どうしたの」
「何かあったんですか?」
「……美海がこれから、男の子を連れてくるんだ」
「……そう」
「じゃあ、張り切っておやつを作らないとですね」
「僕、髪ぼさぼさかな……? 颯くんいないから、セットしてもらえない……。服も、着替えた方がいいかな……? でも、どんな服着たらいいのかわからないや……」
「……少し落ち着きなよ」
「心くんはそのままで素敵だから、心配いりませんよ。それに、急に髪型や服装を変えたら美海ちゃんがびっくりしちゃいます」
「そう、だよね……」
テンパっていつになく饒舌になった僕を、理玖さんと晴久さんが落ち着かせてくれる。
……こんなに慌てることじゃ、ないよね。
妹が、友達を家に連れてくるだけなんだから……。
「二人とも、ありがと……。もう大丈夫……」
「……そう」
「それならよかったです。じゃあ、超特急でおやつを作ってしまいましょう」
僕は、あずきの入った鍋を見守る仕事を任された。
晴久さんが午前中から仕込んでたみたいで、中のあずきはもうとろとろだ。
優しい甘さが、僕の鼻をくすぐる。
今すぐこの鍋の中に飛び込みたいくらい、おいしそう……。
そんなことを考えながら鍋を見つめてたら、あっという間に時間が過ぎてたんだ……。