恋敵(?)の兄
お昼休憩も終わり、午後の部が始まった。
蒼一朗と大和は、ペア障害物競走という種目に出ることにした。
二人でデカパンに入った状態でスタートし、途中からは手を使わずに風船を運ぶ。
そして、二人三脚でゴールするというものだった。
どのようなペアで参加してもよいのだが、やはり親子や兄弟で出場する人が多いようだ。
二人が出場希望者の集合場所に行くと、そこには、隼輔と兄と思われる人物がいた。
どうやら彼らも、この競技に出場するらしい。
赤の鉢巻をつけているその男は、蒼一朗にとって見覚えがある者だ。
「大和の言ってた奴の兄貴ってあんただったのかよ、部長さん……」
「やあ、柏木くん。やっぱり君も来てたんだね!」
隼輔の兄とは、蒼一朗が所属する陸上部の部長である恵輔だったのだ。
「俺たちみたいに歳が離れてる兄弟って珍しいと思ってたんだけど、いるもんなんすね」
「僕も驚いたよ。弟の恋敵の兄が、まさか君だったなんて」
「……手加減しませんよ」
「そうこなくちゃね! 望むところだよ」
兄同士の和やかな雰囲気とは違い、弟たちの間には火花が飛び散っていた。
といっても、隼輔が一方的に大和を敵視しているだけなのだが。
「やまと、逃げずにちゃんと来てたんだな!」
大和は、こくりと頷く。
「……みうも一緒に来てんだろ? このきょうぎ、お前にはぜってぇー負けないからな! にいちゃん、行こっ!」
「もう行くのかい? 柏木くん、大和くん、お互いベストを尽くそうね!」
隼輔は言いたいことだけを言うと、恵輔の手を引きどこかへ行ってしまった。
(あんまり似てない兄弟だな……。って、それはうちもか。大和には絶対に勝つって言ったけど、相手が部長さんだとヤバいかもしんねぇ……)
恵輔は中距離、長距離だけではなく、短距離走も速いのだ。
蒼一朗がちらりと視線を向けると、隼輔の言葉に動揺したのか、そこには不安そうな表情をした大和の姿があった。
「……あいつの兄ちゃんには、絶対にリレーで勝つから心配すんな。この競技は、せっかく二人で出るんだ。楽しまなきゃ損だろ?」
大和の頭を優しく撫でながら、にっかりとした笑顔で蒼一朗は言う。
その言葉は、弟だけではなく自分にも言い聞かせているようだった。
兄の笑顔を見て安心した大和は控えめに微笑むと、蒼一朗の手をきゅっと握った。