死も生も、君と一緒に
「理玖、どうしてここに……?」
「……無事でよかったよ」
息を切らせ、額には汗を滲ませた理玖が近付いてくる。
透花は先程までの弱々しい表情を仕舞い、笑顔を作った。
「……ここは危険だから、すぐに逃げて」
「…はあ」
理玖は呆れたようにため息を吐くと、地面に座り込んでいる透花を優しく抱き締めた。
彼の心臓の音を聞き、体温を感じたことで、透花の震えが少しずつ治まっていく。
「理玖……?」
「……僕の前で、そんな顔しなくていいから」
透花の様子がおかしいことも、今の笑顔がいつもとは違うことも理玖は気付いていた。
理玖の言葉を聞くと、透花は困ったように笑う。
「……本当に、理玖には敵わないなぁ」
「……当たり前だろう。何年、君のことを想い続けてると思ってるの」
「……うん、そうだよね」
「……行くよ。爆発までまだ時間がある」
理玖は透花の体を離すと、手を引こうとする。
だが彼女は立ち上がろうとせず、首を横に振った。
「……それは、できないよ。私は、この城を守らなければならないから」
「……そう言うと思ったよ」
理玖はそう言うと、透花の隣に腰を下ろした。
「……理玖は逃げて。爆発の規模が分からないから、少しでも遠くに」
「……断る。逃げるなら、君も一緒だ」
「……私は行けない」
「……知ってる。だから僕も、ここに残る」
「……ここまで来てくれて本当にありがとう。理玖の顔が見れてよかった。でも私は、あなたに死んでほしくないの。これは、隊長命令です。春原隊員、今すぐここを離れなさい」
「……僕が君の部下なのは、紙の上での話だ。その命令を聞く気はない」
「……書類上の話でも、理玖は私の部下だよ。命令を拒否することはできません」
「……あまり、僕を見くびるなよ」
理玖の視線が、真っ直ぐに透花を射抜く。
その熱い瞳は、瞬きをすることすら許さない。
「……君のいない世界に、僕が生きる意味なんてないよ」
「………………………………」
「君がここで死ぬなら、僕も一緒に死ぬ」
「………………………………」
「……君は昔、僕とは一緒に生きられないと言ったね」
「……うん」
「……じゃあせめて、死に場所くらいは選ばせてくれないか」
「……ふふっ、そうだね。理玖って、こういう人だったよね」
そう言って笑う透花は、すっかりいつも通りの柔らかく凛々しい女性だった。
理玖の話を聞いている内に、心が落ち着いたようだ。
「じゃあ、ちょっと付き合ってもらおうかな」
「……ああ。君のことだから、勝算はあるんだろう」
「……五分五分だけどね」
「……調節が上手くいってない最近でもそれくらいあるなら、充分だと思うけど」
「……本当に、私のことなんでもわかっちゃうんだね」
「……見てればすぐに気付くよ。それくらい、僕は君に執着してるんだ」
「……ありがとう」
「……ふん」
(私だって、同じくらい、ううん、それ以上にあなたに執着しているんだよ)
口には出さず飲み込んだ言葉は、誰にも聞かれることなく消えていく。
透花と理玖は、手を繋いだ。
そして、運命の時を静かに待つのだった――――――――――。