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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十三話
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死も生も、君と一緒に

「理玖、どうしてここに……?」

「……無事でよかったよ」


 息を切らせ、額には汗を滲ませた理玖が近付いてくる。

 透花は先程までの弱々しい表情を仕舞い、笑顔を作った。


「……ここは危険だから、すぐに逃げて」

「…はあ」


 理玖は呆れたようにため息を吐くと、地面に座り込んでいる透花を優しく抱き締めた。

 彼の心臓の音を聞き、体温を感じたことで、透花の震えが少しずつ治まっていく。


「理玖……?」

「……僕の前で、そんな顔しなくていいから」


 透花の様子がおかしいことも、今の笑顔がいつもとは違うことも理玖は気付いていた。

 理玖の言葉を聞くと、透花は困ったように笑う。


「……本当に、理玖には敵わないなぁ」

「……当たり前だろう。何年、君のことを想い続けてると思ってるの」

「……うん、そうだよね」

「……行くよ。爆発までまだ時間がある」


 理玖は透花の体を離すと、手を引こうとする。

 だが彼女は立ち上がろうとせず、首を横に振った。


「……それは、できないよ。私は、この城を守らなければならないから」

「……そう言うと思ったよ」


 理玖はそう言うと、透花の隣に腰を下ろした。


「……理玖は逃げて。爆発の規模が分からないから、少しでも遠くに」

「……断る。逃げるなら、君も一緒だ」

「……私は行けない」

「……知ってる。だから僕も、ここに残る」

「……ここまで来てくれて本当にありがとう。理玖の顔が見れてよかった。でも私は、あなたに死んでほしくないの。これは、隊長命令です。春原隊員、今すぐここを離れなさい」

「……僕が君の部下なのは、紙の上での話だ。その命令を聞く気はない」

「……書類上の話でも、理玖は私の部下だよ。命令を拒否することはできません」

「……あまり、僕を見くびるなよ」


 理玖の視線が、真っ直ぐに透花を射抜く。

 その熱い瞳は、瞬きをすることすら許さない。


「……君のいない世界に、僕が生きる意味なんてないよ」

「………………………………」

「君がここで死ぬなら、僕も一緒に死ぬ」

「………………………………」

「……君は昔、僕とは一緒に生きられないと言ったね」

「……うん」

「……じゃあせめて、死に場所くらいは選ばせてくれないか」

「……ふふっ、そうだね。理玖って、こういう人だったよね」


 そう言って笑う透花は、すっかりいつも通りの柔らかく凛々しい女性だった。

 理玖の話を聞いている内に、心が落ち着いたようだ。


「じゃあ、ちょっと付き合ってもらおうかな」

「……ああ。君のことだから、勝算はあるんだろう」

「……五分五分だけどね」

「……調節が上手くいってない最近でもそれくらいあるなら、充分だと思うけど」

「……本当に、私のことなんでもわかっちゃうんだね」

「……見てればすぐに気付くよ。それくらい、僕は君に執着してるんだ」

「……ありがとう」

「……ふん」


(私だって、同じくらい、ううん、それ以上にあなたに執着しているんだよ)


 口には出さず飲み込んだ言葉は、誰にも聞かれることなく消えていく。

 透花と理玖は、手を繋いだ。

 そして、運命の時を静かに待つのだった――――――――――。

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