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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第四十三話
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頭を過ぎったのは、あなた

 柊平たちが真実を知る、少し前のこと。

 透花は、無表情で爆弾と向き合っていた。


(爆発の時間まであともう少しか。みんなは、ちゃんと避難できたかな)


 既に、爆発物処理班が向かえないという連絡は来ている。

 だが彼女は、この場を動こうとはしなかった。

 目の前の爆弾が本物であれば、その爆発は王宮の崩壊に繋がるかもしれない。

 それだけは、なんとしても防がなければならないのだ。


(……勝算は、ある。あまり高くはないけれど……)


 透花には、爆発を封じる方法が一つだけあった。

 だが、失敗すれば命の保障はない。


(……手が、震える)


 死を身近に感じた途端、透花の手が震え始める。

 彼女はそれを、自嘲的な笑みで見ていた。


(……私、死ぬのが怖いんだ。死にたいと願った時には、どうしても死ねなかったのに……。こんな体でも、まだちゃんと人間なんだね……)


 透花の頭の中を、様々な思い出が過ぎっていく。

 辛いことも多い人生だったが、思い浮かぶのは楽しい記憶ばかりだ。


(柊平さん、結局あのループタイ使ってくれなかったな。一回くらい、つけているところを見たかった。蒼一朗さんとも、もう走れないのかな。このままじゃ、勝ち逃げだって怒られちゃうよね。ハルくんの煮物、本当に美味しかったなぁ。今度、味付けを教えてもらう約束をしてたのに。虹太くんの音楽に、自分も関わってみたかった。拙いピアノだけれど、お願いすれば連弾してくれたのかな。湊人くんには、将棋やチェスで勝てた試しがなかったっけ。一回くらい、彼を追い詰めてみたかったかも。心くんの部活の試合を、一度生で見てみたかった。矢を射るところは文化祭で見たけれど、試合だと更に凛々しくなるんだろうな。もう、颯くんに髪や爪を整えてもらうこともないのかな。私がこんなに綺麗でいられるのは、颯くんのおかげだったよ。ぱかおの毛を、もっと触らせてもらえばよかった。なんとなく恥ずかしくて撫でることしかできなかったけれど、本当は顔を埋めたかったんだよ。……大和くんと美海ちゃんに、また”家族”を失わせてしまうのは辛いなぁ。本当にごめんなさい……)


 最後に透花の頭に浮かんだのは、理玖の顔だった。

 彼と過ごした数年分の思い出が、走馬灯のように過ぎっていく。


(……理玖。あなたの顔を見たい。あなたの声が聞きたいよ。私は、あなたのことを……)


「――――――――――透花!」


 透花の耳に、聞こえるはずのない声が届く。

 振り返るとそこには、会いたくて堪らなかった理玖が立っていたのだった――――――――――。

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