平和の象徴よ、汚されることなかれ
無事にコンサートを成功させた虹太と颯は、すっかりいつもの日常に戻っていた。
夏生が所属する事務所の専属作曲家、デザイナーとして働いて欲しいと頼まれたのだが、二人はこれを断ったのだ。
「俺の本職はピアノで、作曲はあくまでも息抜きだからね~。それを仕事にしちゃうといいメロディが浮かんでこなくなっちゃいそうなので、パスさせてもらいまーす!」
「俺も断るっす! 今回のはぶっちゃけ、ビギナーズラック的にいいデザインが浮かんできただけだと思うんで! もっともっと修業が必要っすよ!」
これが、二人の言い分らしい。
専属で働くことは出来ないが、今後もいい楽曲、または衣装のデザインが浮かんだ時には提供するということで合意したようだ。
件の作曲家とデザイナーは、業界での地位を完璧に失った。
夏生たちのプロデュースを放棄、楽曲と衣装の使用を停止しただけではなく、音源と衣装を破壊しコンサートを妨害しようとしたことまでが白日の下に晒されてしまったからだ。
二度と、芸能界で活動していくことは出来ないだろう。
「颯くん、始まったよ~☆」
「うっす! すげっ! ほんとに有川がテレビに映ってる!」
虹太と颯は、リビングで並んでテレビを見ている。
夏生たちは、今回のコンサートの成功を受け仕事が激増していた。
そこまで大きくはないが、冠番組を持つほどである。
内容は、アイドルが体当たりで様々な企画に挑戦するというよくあるバラエティだ。
だが、画面越しの夏生たちはとても輝いて見えるのだ。
「夏生くん、いい笑顔だね~」
「そっすね! いつか、このキラキラを生で見てえなあ……」
「アイドルが一番キラキラしてるのって、やっぱコンサートじゃない?」
「うっす……。この間も充分キラキラしてたけど、楽屋でモニター越しだったっすもんね……。男限定ライブとか、早くやってくんないかな……」
「それよりも、颯くんが女の子を克服する方が早いと思うけどな~」
「はっ!? むむむ、無理っすよ! 絶対に無理!」
「え~? そう? この間、学校の子がうちに来てたって聞いたけど♪」
「あっ、あれはフカコーリョクってやつっす! 俺が頼んだわけじゃ……!」
虹太と颯が騒いでいると、大きな袋を持った透花が部屋に入ってきた。
颯はすぐさま立ち上がり、透花の荷物を持つ。
「透花さん、持ちます!」
「ありがとう、颯くん」
「これ、なんすか?」
「軍服だよ。クリーニングに出していた物を受け取ってきたんだ」
衣装として使用した軍服は、小物などを取り外し一色隊へと返却された。
洗濯されたそれは、夏生たちが着る前と変わらず真っ白だ。
今回の件で、透花が上層部に咎められることはなかった。
正規の軍服がアイドルの衣装に使われたなど、誰も気付きもしないからだ。
「俺たち、滅多に軍服なんて着ないっすもんね! この服も、クローゼットで眠ってるより有川たちに着てもらえて幸せだったと思うっすよ!」
「確かに~。柊平さんなんかはたまに仕事で着てるみたいだけど、俺らは全然だもんね~」
「着る機会が少ないのは、王都が平和な証拠だと思うよ。この服には申し訳ないけど、これらからもあまり着ることがないといいかなーなんて」
「確かにそうっすね! たまにならいいけど、やっぱこういうのは肩が凝るんで!」
「俺は、着る時はゆる~くにアレンジしてるけどね☆」
その後、三人は仲良く並んで夏生たちの冠番組を見た。
彼らの近くには、一色隊の象徴である白の軍服が佇んでいる。
白、それは何物にも染まっていない美しい色。
平和を感じさせる、全ての色を含む光だ――――――――――。