僕が逃がすわけないでしょ
コンサートはつつがなく進み、遂に最後の曲となった。
ステージには、白の衣装に身を包んだ夏生たちの姿がある。
「きゃー! 軍服っぽい衣装だよ! すっごいかっこよくない!?」
「うん! なんか、今日の衣装いつもよりもいいよね!」
「わかる~! 曲も、新曲ばっかなのにすんなり耳に入ってくるっていうかさ!」
「前の曲を全然歌わないのは気になるけど、みんなのソロ曲も聴けて大満足だよ~♡」
夏生たちも観客も、盛り上がりは最高潮だ。
その様子を、客席の片隅で面白くなさそうに見ている二人の男がいる。
夏生たちに楽曲と衣装の提供を断った、作曲家とデザイナーだ。
彼らは、自分たちの力がなければ成功など有り得ないと思っていた。
どんな惨めなコンサートをやるのか見てやろうという思いで足を運んだのだ。
だが、現実は彼らの想像とは全く異なった。
夏生たちは新たな曲と衣装を作り、ステージに立っている。
それだけではなく、彼らがプロデュースしていた時よりも何倍も盛り上がっているのだ。
コンサート序盤でそのことに気付いた二人は、急遽末端のスタッフを買収し、音源や衣装を壊すという妨害工作に出た。
自分たちの協力なしでの成功など、あってはならないからだ。
だが、夏生たちはそれにも負けなかった。
夏生のソロ曲は、生演奏と相まって客席を感動の渦に巻き込んだのだ。
そして、壊したはずの衣装とは全く別の服を身に纏い、今もステージで輝いている。
「こ、こんなはずでは……! 音源も衣装も確かに壊したんだぞ……!」
「まさか、スタッフの裏切りがあったのではないか!? あんなに金を渡したのに……!」
「……いや、証拠の写真も貰ったんだ。そんなことはありえない……!」
「じゃあ、なぜ奴らは歌い続けられるんだ……!? 今日のコンサートが失敗して、私たちに頭を下げさせる計画が台無しじゃないか……!」
夏生たちの歌声と観客の歓声に満ちたホールで、二人の男の話し声に気付く者はいない。
――――――――――ただ二人を除いては。
「……ふふふ、詰めの甘い人たちだよねぇ。あんな会話を、ここでしちゃってさ」
「……録音したの?」
「うん、バッチリさ。正確に言うと、録音だけじゃなくて録画もしたんだけどね。音だけじゃ、シラを切き通されちゃうかもしれないでしょ?」
「すごい、ね……」
二人の会話を、湊人と心が録音、そして録画していたのだ。
このことが公になれば、彼らは業界での地位を失うことになるだろう。
ほぼ同時刻、ステージ裏では今回の実行犯が柊平と理玖によって捕えられていた。
湊人がアリバイなどによって導き出した人物に脅しをかけると、あっさりと自白したらしい。
住所や家族の勤務先などの情報まで握られていては、逆らうことは出来ないだろうが。
こうして夏生たちのコンサートは、歓声の止まぬまま大成功の内に幕を下ろしたのだった――――――――――。