感じずにはいられないほどの
「透花さん、今日仕事じゃなかったんすか!?」
「早めに終わったから一度帰ってきたんだ。一時間後にまた出ないといけないから、それまで私にも手伝わせてもらえないかな。あと、これは差し入れ」
「あざまっす! 持ちます!」
「ありがとう、颯くん。本当はお茶でも淹れようと思ったんだけど、零すといけないと思ったのでペットボトルにしてみました」
「俺、配るっす!」
颯は立ち上がると、すぐに透花に駆け寄っていく。
そして、彼女の手からペットボトルを受け取るとみんなに配り始めた。
「あなたが”トウカさん”?」
「はい。ユリさんですよね。いつも颯くんから話を聞かせてもらっています」
「私もあなたのことをよく聞いてるわ。颯ちゃんに女の子の知り合いがいるなんて信じられなかったけど、こんなに綺麗な子とはねえ。髪もサラサラだし、肌もツルツルじゃない!」
「ユリさんのように美を追求されている方にそう言っていただけるなんて、とても嬉しいです。ありがとうございます」
「あなた、モデルとかやってみる気はない?」
「ありがたいお話ですが、仕事が色々忙しい身ですので」
「そう? 残念だわ。ま、気が変わったら言ってよね。いつでも歓迎するわ」
由莉の恋愛対象は男性だが、職業柄美しいものには目がないのだ。
そんな彼女が、透花を目の前にして黙っていられるわけもなかった。
モデルの勧誘こそ断られてしまったが、その後も楽しそうに会話をしている。
「日菜子さん、大分お腹が大きくなってきましたね。体調はいかがですか?」
「はい、おかげ様で元気にやっています。よかったら、お腹を撫でていただけませんか? 一色様に撫でてもらったら、無事に産まれてくるような気がするんです」
「私でよければ、喜んで。よしよし、元気に産まれてくるんだよ」
由莉との会話を終えた透花は、日菜子の隣へと移動した。
そして、彼女の膨らんだ腹を優しく撫でる。
その表情はどこまでも慈愛に満ちているが、どことなく儚げなものだった。
「こんにちは。藍原寧々ちゃんだよね」
「は、はいっ! あ、あの、ええと……」
「名乗りもせずに、ごめんね。私は一色透花といいます」
「きょ、今日はお邪魔してます!」
「いえいえ。大したお構いもできなくて申し訳ないけど、ゆっくりしていってね」
透花は最後に、端で移動していた寧々にも声をかけた。
急な出来事に混乱し、おかしなことを口走ってしまった寧々を気にする様子もない。
(やっぱり、大人だなあ……。私と全然違うっ……)
透花の対応に、寧々は自分との差を見せつけられたように思うのだった――――――――――。