やる気と笑顔を引き起こすもの
更に数日後には、夏生の事務所に完成した音源と衣装のデザイン案が届けられた。
それを確認した社長やスタッフ、そして夏生たちは動揺を隠せない。
「こ、このクオリティを数日で……!」
「有川くん、この二人は一体何者なんだね!?」
「ふ、普通の大学生とクラスメイトなんですが……」
「こんな逸材が素人だなんて……!?」
「二人とは、今後もいい付き合いをさせてもらいたいものだな!」
虹太が作った曲は、十曲を軽く超え二十曲ほどに達していた。
グループ全体で歌うものだけではなく、それぞれのソロ曲まで作ったのだ。
颯も、一曲に対して二着から三着デザインするという徹底ぶりだ。
今までよりも、個人の個性が目立つ衣装になっている。
何より有り難いのは、添えられていた文章の内容だった。
『大目にできたので、好きな曲を選んでください☆ ソロ曲は、みんなの音域や歌唱力を考えて作らせてもらいました。歌いづらいなどあったら、遠慮なく連絡くださいね~♪』
『ここをもっとこうしたいとかの意見があったら、どしどし連絡ください! みんなの意見を取り入れたいです! 電話連絡の場合は、男の人限定でお願いします!』
以前の作曲家とデザイナーは、他の者の意見に耳を貸すことはなかった。
提案をしても、罵声を浴びせられ切り捨てられるだけだ。
自分の曲、デザインが最も素晴らしいと自負しているからである。
そのため、夏生たちは幾度となく苦い思いをしてきたのだ。
だが、虹太と颯に変に凝り固まったプライドはない。
自分たちの意見が反映されるということに、夏生たちメンバーはワクワクしていた。
「早速、この素敵な作品に合う歌詞とダンスを考えよう!」
「お任せください! ぴったりなダンスを考えますよ!」
「社長! 俺、自分のソロ曲は自分で作詞したいです!」
「俺もです! やったことないですけど、なんとなくやれる気がします!」
「いいぞいいぞ! こんなに素敵な曲と衣装を作ってもらったんだから、ここからは私たちは頑張らないといかんな! コンサート当日まで、全力で走り抜けようじゃないか!」
「「「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」」」
不安で淀んでいた事務所内の空気が、明るいものに塗り替えられていく。
虹太と颯がこの場にいたら、誰よりも笑顔になっていたのはこの二人だっただろう。
こうしてコンサートに向けての準備は、着々と進んでいくのだった。