※徹夜は体によくありません。
夏生が一色邸を訪れた、翌日のことである。
皆で集まって夕飯を食べているのだが、船を漕いでいる者が二人いた。
時間も忘れるほどに熱中し、夜通し作業を行っていた虹太と颯だ。
虹太は既に何曲かを完成させ、それを元に颯が衣装をデザインする段階まで来ていた。
二人ともかろうじて手と口を動かしているが、今にも眠ってしまいそうだ。
「二人とも、食べ終わったら少し寝た方がいいんじゃないかな?」
「え~? 俺、めっちゃ元気だよ~☆」
「俺もっす! まだまだ頑張るっすよ!」
透花が心配して声をかけるものの、二人には休憩する気がないようだ。
それどころか、理玖相手にこんなことを言い出したのだ。
「りっく~ん。りっくんお手製の、徹夜が楽にできちゃう薬とかない~?」
「それいいっすね! 俺も欲しいっす!」
「……もしあったとしても、僕は医者としてそんな薬は絶対に処方しない」
「え~? すっごい効く栄養剤とか、そういうのでもいいからさ~!」
「なんかないんすか!? こう、ハイになれるようなやつ!」
バッサリと切り捨てられたものの、虹太と颯は諦められない様子だ。
まずは理玖が、颯に追い打ちをかける。
「……夜にきちんと寝ないと、背が伸びないよ」
「うぐっ……!」
「……隊員で一番背が低くなる日も近いかもね」
「俺、今日は寝ます! めっちゃ寝ます!!」
身長に関する話に、颯は敏感なのだ。
現在一色隊で心の次に身長が低い颯は、このことをとても気にしている。
そのため毎日牛乳を飲んでいるのだが、あまり効果は得られていない。
虹太に追い打ちをかけたのは、夜通し一緒に作業をしていた湊人だった。
彼は徹夜でゲームをすることに慣れているため、二人よりもピンピンしている。
「僕、今日は徹夜しないからね」
「え!? なんで!? 湊人くん、全然眠くなさそうじゃーん!」
「まだ報酬もらってないし、僕にだってやりたいことがあるもの」
「そんな~」
「昨日は勢いに負けて付き合っちゃったけど、今日はパスするよ」
「……わかった。湊人くんがいないとなんにもできないから、俺も今日は寝る~」
虹太が一人で出来る作業には、限界がある。
曲にしたいメロディが溢れて仕方ない虹太は、ほぼ全ての曲を楽譜に書き起こしていた。
そのため、現在は編曲の段階まで来ている。
湊人の協力が得られないのであれば、続行は不可能なのだ。
虹太と颯はこの日の夜、前日分を取り戻すかのように熟睡した。
こうして二人は周囲の人間を少しずつ巻き込みながら、着実に楽曲と衣装のデザインを完成させていくのだった。