楽曲問題、解決!!
「なるほどね~。普段から作曲もしてるし、俺でよければ力になるよん☆」
全ての事情を聞き、虹太が出した答えは何ともあっさりしたものだった。
その様子に、颯は自慢気な表情を浮かべ、夏生は目を見開いて驚いている。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「うん。でも、俺からいくつか条件っていうかお願いがあるんだ~」
その言葉に、夏生は背筋を伸ばした。
だが、肝心の虹太はあくまでの緩い雰囲気のままである。
「まず一つ目は、曲数についてだね。何曲くらいあればだいじょーぶ?」
「そうですね。十曲くらいあると助かるんですが……」
「十曲かぁ~。曲を元に衣装やダンスが作られるだろうから、俺の締め切りが一番近いってことになるよね。その日までに全曲完成させるって約束はできないかも。ごめんね~」
「大丈夫です! 作ってもらえるだけで嬉しいので……!」
「そう言ってもらえると助かるよ~。俺って基本的に、気分だったりフィーリングで曲を作る人間だからさ! いいメロディがたくさん浮かぶ日もあれば、全く降りてこない日もあるんだよね。できるだけ頑張るけど、このスタンスは崩したくないんだ~」
ここで颯が、あることに気付く。
「そういえば、ダンスを考えてくれる人はいるのか?」
「あ、うん。それは大丈夫! 振付師さんはちゃんといるから!」
「それなら安心だな!」
颯と夏生の会話が終わったところで、虹太は話を続ける。
「次に、二つ目ね。作曲は引き受けるけど、作詞はできないよ。それもへーき?」
「……大丈夫です。グループのみんなと相談してなんとかします!」
「オッケ~。作詞の関係でもっと曲をこうして欲しいっていうのがあればいつでも言ってね☆ 最後に、三つ目。俺、いつもは浮かんだメロディをギターやピアノで弾いて、楽譜に起こしてるんだ。でも、コンサートで夏生くんたちが歌うなら、ちゃんとした音源を作らないといけないよね。編曲っていうのかな。シンセサイザーとかパソコンとか作って頑張ってはみるけど、生演奏の音源には敵わないと思う。それでもいい~?」
「もちろんです! むしろ、そこまでしていただけるなんて……!」
颯が、再びあることに気付いた。
「虹太さん、シンセなんちゃらとかパソコンとか使えるんすか?」
「颯くん、いいとこに気付くね! ぶっちゃけ全然使えない! シンセサイザーは買ってみたものの使いこなせてないし、パソコンは持ってもいませ~ん!」
「ええ!?」
あくまでも明るく言い放った虹太に、夏生は驚きを隠せない。
「まあ、うちには電子機器のスペシャリストがいるからね~。見返りが怖いけど、ここは大人しく湊人くんの力を借りるよ。だからへーきへーき!」
「湊人さんが協力してくれれば千人力っすね!」
当事者ではないが、颯と虹太は関係者になったのだ。
とても大変な事に巻き込まれたにも関わらず、どこまでも楽観的だ。
そんな二人を見ていると、夏生もなんとかなるような気分になるから不思議だ。
「本当にありがとうございます! 報酬は事務所と相談して、相応の額を払いますから!」
「まあ、その辺はコンサートが終わってからでいいよ~。成功しないと、俺の音楽がお金を貰ってもいいものなのかどうかわかんないしね♪」
「俺もそれで大丈夫だからな! あ~、どんな衣装にしようか今からワクワクするぜ~!」
夏生がこの件を事務所に持ち帰った結果、社長やマネージャーは涙を流して喜んだ。
すぐに正式な依頼として、虹太と颯の元に文書が届いたのだ。
それほどまでに、状況は切迫していたらしい。
こうしてそれぞれが、コンサートの成功に向けて動き出したのだった。