お弁当を持って出かけよう
「……っていうことがあったの! しゅんすけくん、いつもはやさしいのにやまとくんにはたまに怖くなるんだよ……」
悲しそうに言う美海を見て、大人たちは思う。
(うちの美海はかわいいから……)
(まぁ、大和と美海はいっつも一緒にいるから、その隼輔って奴がそう思うのは仕方ねーけど……)
(最近の子どもって、ほんとませてるよね……)
興味なさそうにしていた理玖も、ちゃっかり話を聞いていたようだ。
「男の子の考えていることはね、女の子にはわからない時もあるんだよ」
透花はそう言いながら、美海の頭を優しく撫でた。
「……そうだ! せっかくだからその日、みんなで地域運動会に行かない?」
透花の言葉に一番に反応したのは、珍しいことに大和だった。
瞳を輝かせながら、大きく首を縦に振っている。
「大和くんも、みんなで行きたいって! 蒼一朗さんも、みんなからの応援があった方が頑張れるよねー」
「いや、別に変わんねーと思うけど……」
蒼一朗の言葉を遮り、透花が小声で囁く。
「仕事が忙しくて、大和くんには寂しい思いさせているんじゃない? 遠出でもない、特別な場所に行くわけでもないのに、みんなで出かけるってだけであんなに嬉しそうにしている。叶えてあげたら? お兄ちゃん」
確かに大和は、とても嬉しそうな顔をしていた。
「……みんなが見てんなら、尚更負けるわけにはいかねーよな。大和、任せとけ。兄ちゃん、絶対勝つからな!」
蒼一朗がそう言いながら髪の毛をくしゃりと撫でると、大和は気持ちよさそうに目を細める。
「よし、じゃあ決まり! 当日、急ぎの任務がない人はみんな参加すること!」
「楽しそうっすね!」
「お弁当も作りましょうね」
夕飯の後片付けを終えた颯と晴久が、ダイニングに入ってくる。
「大和くんが好きなもの、たくさんお弁当に入れましょう。何かリクエストはありますか?」
晴久はそう言うと、大和と目線を合わせるためにしゃがむ。
大和は少し考えてから、“ういんなーとおいなりさん”とたどたどしい字で書いた紙を見せるのだった。