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予感
二十分ほどすると、透花は何本かの傘を持って戻って来た。
空は先程と変わらず、晴天である。
「一色殿、その傘は……」
「雪が降りそうな気がしましたので、持ってまいりました。王様ともあろう方が濡れてしまっては大変です。こちらをお使いください」
しかし、快晴そのものである空から、雪が降る気配はない。
それに、今は花見の季節である春なのだ。
「う、うむ……」
王は訝しみながらも、傘を受け取った。
「皆様も、よかったらお使いください」
透花は、王の周りにいた側近や他の隊長たちにも傘を差し出す。
王と同じように訝しみながらも受け取る者もいたが、ほとんどは――――――――――。
「いや、結構。こんなにいい天気なのに、雪が降るはずありませんからな」
「私もだ。ヴァンには毎年、雪などほとんど降らん。それが、春のこんなよい天気の日に降ることなどまずなかろう」
透花を馬鹿にし、傘を受け取らなかった。
「そうですか。では、こちらに傘を置いておくので、使いたくなったらお使いになってくださいね」
透花は特に気に留める様子もなく、傘を近くに置いた。