絶対に諦めない!
「実はね、今度いつもよりも大きな会場でコンサートができることになったんだ……」
「おっ! それはめでたいな!」
「うん、そうなんだけど……。手放しで喜べる状況じゃなくなっちゃって……」
「どうしたんだ?」
「……今まで歌ってた曲、そして衣装が使えなくなっちゃったんだ!」
「それってヤバいことなのか? 新しいのを作ればいいだろ!」
「それが、そうもいかないんだよ……」
事の重大さが分かっていない颯に、夏生は順を追って説明していく。
「僕たちの曲と衣装はね、全部同じソングライターとデザイナーが担当してくれてたんだ。その二人が突然、僕たちのプロデュースから降りたいって言ってさ……」
「なんでだよ?」
「……僕たちが、イマイチ有名にならないからだろうなぁ。二人とも業界ではかなり有名な人だから、マイナーグループに関わってるのが嫌になったんだと思う……」
「勝手な奴らだな! 有川たちはこれから絶対有名になるのにさ!!」
「……緒方くん、ありがとう。彼らはプロデュースの打ち切りだけじゃなくて、今までの曲と衣装の使用停止も求めてきたんだ。もしこれを破れば、然るべき場所に訴えるって……」
「さっきも言ったけど、そんな奴ら放っておいて新しい人に頼めばいいだろ!」
「……二人は、業界の重鎮なんだよ。だからいろんな場所に手を回してるみたいで、新しく作ってくれる人が見つからないんだ……」
「はあ!? なんだよそれ!? 腹立つ! 有川たち、めっちゃ頑張ってんのに!」
「……このままじゃ、コンサートが中止になっちゃうよ。確かに僕たちはまだまだ有名じゃないけど、楽しみにしてくれるファンの人はいるのに……」
そう言って夏生は、再び溜め息を吐く。
颯はソングライターとデザイナーへの怒りで頭を掻き毟った後、勢いよく席を立った。
「お、緒方くん、どうしたの?」
「有川、今日の放課後時間あるか!?」
「うん。大丈夫だけど……」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれ!」
「いいけど、どこに行くの?」
「ユリちゃんの店だ!」
「ユリさんのお店?」
「おう! 文化祭の時みたいに力になってくれるかもしんないし! 有川、そんな嫌がらせに負けて諦めんなよな! 絶対にコンサート、成功させようぜ!!」
「緒方くん……」
当事者である夏生が諦めそうになっていたにも関わらず、颯は諦めていない。
自分には全く関係ないことのはずなのに、こんなにも一生懸命になってくれている。
それなのに、夏生本人が諦めるわけにはいかないだろう。
折れかけていた心を再び奮わせると、夏生も颯と同じように立ち上がった。
「……ありがとう! うん! 僕、絶対に諦めない!」
「その意気だ!」
こうして二人は、放課後の由莉の店に行くことになったのだった。




