おはよう
(ん……? あさ……?)
目を覚ました大和の目に飛び込んできたのは、見慣れた天井でした。
大きな窓から、爽やかな陽射しが差し込んでいます。
彼が眠っていたのは、いつも蒼一朗と寝ているふかふかのベッドでした。
(ゆめをみてたようなきがする……)
そう、先程までの出来事は、全て大和の夢だったのです。
ですが、夢とはとても儚いものです。
(……どんなゆめだったか、もう思い出せないや)
起きた瞬間には覚えていたはずなのに、もう忘れてしまいました。
隣で寝ているはずの蒼一朗の姿は、既にありません。
大和はぼーっとした頭でスリッパを履くと、兄がいるであろうリビングを目指します。
部屋を出たところで、美海に会いました。
「やまとくん、おはよう」
「………………………………」
なんとなく声が出る気がしたので、口を開きます。
ですが、彼の喉が震えて音を出すことはありませんでした。
(あれ……? ぼく、どうしてこえが出るとおもったのかな……?)
頭を捻っている大和を、美海はぽやーっとした表情で見ています。
どうやら、こちらもまだ起きたばかりのようですね。
二人は大和の部屋に、鉛筆とノートを取りに戻ります。
そして、一緒にリビングまで行くことにしました。
「やまとくん、みうね、今日ゆめを見たんだ」
その途中で、美海がこんなことを言い出しました。
大和は、人差し指で自分を指差します。
「やまとくんも見たの?」
「………………………………」
美海の問いに、大和はこくりと頷きます。
「そっかぁ。どんなゆめかは思い出せないんだけどね、とってもたのしかった気がするの!」
大和は、再び頷きます。
自分も、そうだったような気がするからです。
「おきたときに、メモすればよかった! そうしたらわすれずにすんだのに!」
“ぼくも、そうすればよかった。ゆめって、どうしてすぐにわすれちゃうんだろうね”
大和と美海は忘れてしまった夢を思い出す方法がないか話し合いながら、みんなが待つであろうリビングへと向かうのでした。