おとことおとこのたたかい
「……やまと、勝負だ!!」
そんな和やかな空気を破ったのは、隼輔の大きな声だった。
大和は驚き、彼の方を見る。
「今度の地域運動会で、速かった方のにいちゃんが勝ちだ! お前のにいちゃんが勝ったら、おれがお前のいうことを一つだけなんでもきいてやる! おれのにいちゃんが勝ったら、お前はおれのいうことを一つだけなんでもきけ! わかったか!?」
隼輔の勝手な言い分に、周りの女子たちは黙っていない。
「ちょっと、しゅんすけくん! 何勝手に決めてんの!」
「そうよ! やまとくん、やるなんて言ってないじゃん!」
しかし、黙っていないのは女子だけではなかった。
「女はだまってろよ!」
「これは、男と男のたたかいなんだ!」
先程隼輔と話していた男子たちも加わり、大和が何かを伝える隙もなくみんなはどんどんヒートアップしていく。
「やまとくん、大丈夫だよ。おうちに帰ったら、一緒にそうにいにお願いしよう。もしそうにいが無理だったら、あんまり足は速くないけどしんにいにたのめば……」
美海が優しく大和に声をかけたのを見て、隼輔は大和を睨みつけた。
「やまと! 当日、絶対にげんなよ!」
最後に捨て台詞を吐くと、隼輔は怒った様子でどこかに行ってしまった。
大和は、困惑したままその場に取り残されたのだった。