さっきの敵も今は友!
「お前ら、すごいな! 俺、こんな攻撃初めて見たぜ!」
毛の塊の中から、敵の少年が顔を出します。
その表情からは、すっかり敵意が消え去っていました。
実はこれ、ぱかおの能力なんですよ。
「やっぱり、ぱかおの毛の力はすごいね……」
「へへーん! そうだろ!? もっと褒めてもいいんだぞ!!」
ぱかおの毛は、とてももふもふで気持ちがいいんです。
あまりの柔らかさに、ひとたび触れれば敵の戦意を奪ってしまいます。
「二人とも、名前はなんていうんだ? 俺はハヤテ!」
「……僕は、シン」
「オレはぱかおだ!」
「シンにぱかおか! すげーコンビネーションだったな!」
ハヤテと名乗った彼は、快活な笑みを浮かべます。
それは、人間の少年と何ら変わりない笑顔でした。
「お前、いいヤツそうだな!」
「……うん。どうして、魔王に従ってるの?」
「そうそう! それなんだけどさ、お前らなんか勘違いしてねーか?」
「かんちがい……?」
「どういうこと……?」
「悪事ばっか働いてたのは、今の魔王じゃないんだよ!」
「ええええええええええ!? 違うのか!?」
「そんな……」
「ニンゲンたちにどういう風に伝わってるのかわかんないけど、今の魔王はいい奴だぜ! 放浪の旅をしてた時に、片っ端から悪さをしてる魔物をこらしめてたらしいんだ! それで最終的に前の魔王も倒しちゃって、本人の意思とは関係なく次の魔王になっちゃったんだよ! 前の魔王と違って家来にも優しくしてくれるから、勇者に倒されたら困るんだよ!」
ハヤテの話を、シンとぱかおは目をぱちくりとさせながら聞いています。
彼らが今まで敵だと思い込んでいた魔王は、悪者ではなかったのです。
「姫は!? じゃあ、姫はどうなるんだ!?」
「彼の話がほんとなら、きっと姫も……」
「姫って、ミウのことだろ? 前の魔王が攫ってきたんだけど、今は元気にこの城で暮らしてるぜ! ここの暮らしが気に入ったとか言って、なかなか帰ろうとしないんだよ!」
「やばいぞ! シン!」
「……うん。早くヤマトに伝えないと」
「ああ! シュウヘイはユウズウが効かないからな!」
「……きっと、問答無用で魔王に斬りかかってるよね」
走り出そうとしたシンとぱかおを、ハヤテが呼び止めます。
「待ってくれ! 俺も行く! ……だから、この毛なんとかならないか?」
「……ぱかお、どう?」
「うーん、無理だな!」
ハヤテは未だに、顔だけが毛の塊から出ていて体は埋まったままでした。
柔らかい毛は動けば動くほど彼の体に纏わりつき、全然取れないのです。
「そんな!」
「……ぱかお、タックルして。転がしていこう」
「わかった! 任せろ!」
シンに頼まれたぱかおは、ハヤテごと毛の塊にタックルをかまします。
どうやら、大玉転がしのようにハヤテを最上階まで運ぶようですね。
「このオレが、必ずお前を魔王の所まで送り届けてやるからな!」
「うおおおおお! 目が回るけど、助かるぜえええええ!!」
「……二人とも、がんばって」
さっきまで戦っていた相手なのに、すっかり仲良くなっています。
三人はお城の雰囲気とはそぐわないコミカルな雰囲気を漂わせながら、最上階を目指すのでした。