待ち望んだ存在
「あっ……!!」
「勇者様、大丈夫ですか!?」
「すごい勢いよく抜けたな!」
「あんなに深く刺さってたのに……」
剣は、簡単に地面から抜けました。
力を入れていたため、ヤマトは反動で尻餅をついてしまいます。
「いたたたたた……。うん、大丈夫だよ。ありがとう。ちゃんとぬけてよかった!」
シュウヘイに手を貸してもらい立ち上がったヤマトは、剣を掲げてみます。
それはヤマトの身長よりも大きな大剣なのに、全然重くないのです。
「ヤマト、そんなごつい剣よく持てるな!」
「重くないの……?」
「うん、すっごくかるいよ! 羽が生えてるみたいだ!」
初めて握ったにも関わらず、その剣はヤマトの小さな手にしっくりきます。
まるで、昔からの親友と久々に会ったような感覚でした。
「……君が勇者だからそう感じるんだ。普通の人間だとこうはいかない。……鎧の君、試しにあの剣を持ってみてくれないか」
「……私か?」
「ああ。動物と妖精には無理だろう。……怪我しないようにね」
「……勇者様、失礼いたします」
リクに促されたシュウヘイが、剣の柄へと手を伸ばします。
「ぐっ……! なんだ、この重さは……!?」
しかし、すぐにその手を離してしまいました。
いや、離さざるを得なかったのでしょうね。
「……こんな感じで、普通の人間には重くて扱えない。彼のように、鍛えられた騎士でもだ。……そんな剣を軽々と持ち上げる君は、本当に勇者みたいだね」
この瞬間、リクの表情がほんの少しだけ緩みました。
彼の一族は、代々この地で剣を守ってきたのです。
勇者という存在を、誰よりも待ち望んでいたのはリクなのでしょう。
「……さて、魔王の城まで送ってあげるよ。外に出よう」
緩んだ表情を見られないように、リクはみんなに背中を向けてしまいます。
その背中を追って、みんなも階段を上っていくのでした。