やさしいコックさん
ヤマトたち三人と一匹は、最初の予定通り食事処に来ました。
あの女の子のことは気になりますが、考えても何も分からないからです。
「このパン、ふわふわですごくおいしいね」
「はい。スープも絶妙な味付けで、体が温まります」
「うまい! うまいぞ! もっと食べたい!」
「僕も……。おかわり、したいな……」
みんなで食べるご飯はとてもおいしく、あっという間に食べ終わってしまいました。
お腹が膨れたところで、これからについての話し合いをします。
「これから、どうしよう……」
「勇者様、とりあえず情報屋の言っていた森に行ってみませんか? 魔法を解くためのアイテムについてはわかりませんが、これ以上この町にいても新しい情報はないと思います」
「そうだな! 行ってみれば、何かわかるかもしれないぞ!」
「行動してみることで、開ける道があるかもしれないしね……」
「わかった! じゃあ、森に行ってみよう!」
こうして一行は、森へと向かうことになったのです。
しかしここで、困ったことが一つあります。
そう、さっき貰ったたくさんの苺です。
「これ、持っていったらわるくなっちゃうよね?」
「……そうですね。この天気の中で持ち歩けば、確実に腐ってしまうでしょう。かといって、とても食べ切れる量ではありません……」
「シン! 出番だぞ! お前なら食えるだろ! ちなみにオレはお腹いっぱいだ!」
「僕も、もう無理……。体の大きさが人間くらいあれば、もっともっと食べれるのに……」
「あの、もしよかったらジャムにしましょうか?」
困り果てたヤマトたちに、穏やかな声がかけられます。
みんなが食事をしたテーブルの近くに、一人の男の人が立っていました。
エプロンをしているので、このお店のコックさんなのでしょう。
胸元には、”ハルヒサ”と書かれた名札をしています。
「突然ごめんなさい。困ってるように見えたので……」
「ううん、へいきだよ。ジャムにしたら持ち歩けるの?」
「はい。きちんと消毒した瓶に詰めれば、すぐに腐ることはありませんよ」
「じゃあ、お願いしようかな。みんな、それでだいじょうぶ?」
「勿論です。勇者様のお決めになったことに、異論などありません」
「オレも大丈夫だ! ジャムって、甘くておいしいやつだろ!? オレ、甘いの大好き!」
「僕も……。でも、生のも少し残しておきたい……。ちょっとなら食べれる……」
「わかった! じゃあ、お願いします!」
ヤマトは袋からいくつか苺を取り出すと、残りをハルヒサに渡します。
ハルヒサはそれを、丁寧に受け取りました。
「はい。少し時間がかかりますし、お疲れでしたらうちで休んでいってください
「そういえば、二階は宿屋だったよね。もう夕方だし、今日はここにとまろうか?」
「そうですね。では、部屋を一つお願いします」
「わかりました。完成したら、お部屋に届けますね」
「やったー! 今日はベッドで眠れるぞ!」
「最近野宿が多かったから、嬉しい……」
こうしてヤマトたちは、苺を腐らせることなく保存することに成功したのでした。
数時間後に完成したジャムは、ほっぺが落ちそうになるほど美味しかったようです。
「おいしい……!」
「……これは確かに、絶品ですね」
「甘い! うまい! 甘くてうまーい!!」
「……ん、美味しい。いくらでも食べられそう……」
「ありがとうございます。そんなに喜んでもらえると、僕もとても嬉しいです」
翌朝、ジャムが入った瓶を持ってヤマトたちは宿屋を出ます。
嬉しいことに、ハルヒサのお見送りつきです。
「ご利用ありがとうございました。お気を付けて!」
「こちらこそ、ありがとうございました!!」
ヤマトはハルヒサに元気よく手を振ると、魔法使いがいるという森に向けて歩き始めたのでした。