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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第三十八話
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人のためだけではなく、自分のために

 恵輔に駆け寄ってくるのは、第一走者と第二走者のチームメイトだった。

 自分の出番を終え、ゴールに向かう途中で立ち寄ったのだろう。


「二人とも、お疲れ様。とても気持ちのいい走りだったよ」

「ありがとうございます! って、今はそんなことどうでもいいんですよ!」

「そうです! あいつが……!」


 この二人の耳にも、現状は伝わっていた。

 第八走者の映像から、まだ倒れずになんとか歩いていることは分かる。

 だが、進めなくなるのも時間の問題だろう。


「……うん。これから、棄権を申し入れてこようと思うんだ」

「棄権……!? 部長、お願いします! もうちょっと待ってやってください!」

「俺からもお願いします!!」

「でも……」

「あいつだって、そんなの望んでません!」

「そうです! みんな、部長の異隊のために……!」

「僕の、ため……?」

「「あっ……」」


 部員の一人が、思わず口を滑らせる。

 その言葉を聞いて、恵輔の表情が強張った。


「……それって、どういうことかな?」

「……俺ら、偶然知っちゃったんです。部長が、異隊のために優勝を目指してるって……」

「……今回のメンバーでは、優勝なんて狙えないって分かってます。でも、出来るだけいい順位になれば、可能性はあるかもしれないじゃないですか! だから俺たち……!」

「……それなら、尚更だよ。僕のために、無理をさせるわけにはいかない」

「部長のためだけじゃありません!」

「俺ら自身のためでもあるんです!」


 二人は、必死な表情で訴えかける。


「……俺らの実力じゃ、今後の大会には出られないと思います」

「……今回は、出られなくなった奴らのおこぼれを貰っただけですから」

「そんなことないよ」

「……いえ、自分の実力は誰よりも分かってます」

「……万が一大会に出れても、それはこのメンバーじゃないですよね。一緒に練習してきたからこそ、俺らはこのメンバーで完走したい! あいつも同じ気持ちなんです!」


 二人の説得に、恵輔の心は揺り動かされる。

 だが、部長として無条件でこれを受け入れるわけにはいかない。

 映像を見て難しい顔をした後、静かに口を開いた。


「……二人、いや、みんなの気持ちはわかった。とりあえず、棄権は見送るよ」

「「ありがとうございます!!」」

「……でも、彼の足が完璧に止まるまでの話だ。それ以上は待てない。柏木くんが来るまでに彼が進まなくなったら、僕は君たちを振り切ってでも棄権を申し入れに行くからね」

「……はい」

「……わかりました」

「……柏木くんが出来るだけ早く着いてくれることを願おう」


 彼らは、願う。

 蒼一朗の姿が、一刻も早くカメラに映ることを――――――――――。

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