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部長としてやるべきこと
脱水症状になったチームメイトを救うために、逆走している走者がいる。
その情報は、アンカーである恵輔の耳にもすぐに入った。
(そんな、どうして……! 危ない状態なら、棄権しても構わないのに……!)
彼の今日の目標は、あくまでも全員が楽しんで走ることである。
完走も目指しているが、身体を危険にさらしてまで行うことではない。
恵輔は、彼らが自分のために襷を繋ごうとしているなど夢にも思わないだろう。
(僕が、完走してゴールで会おうなんて言ったから……!)
自分の言葉が、チームメイトを追い詰めたのかもしれない。
そう考えた恵輔が部長として取るべき行動は、一つだけだった。
(……僕から、棄権を申し入れよう)
この権利は、走者自身とチームのキャプテンしか持ち合わせていない。
キャプテンの権限の方が強いので、棄権を指示すれば走者は拒否できないのだ。
「……部長!!」
恵輔が棄権を申し入れようと足を踏み出した瞬間、彼の耳に聞き慣れた声が響いた――――――――――。