みんなでやるから楽しいんだ
それは、偶然のことだった。
恵輔と同僚が話しているところに、部員の一人が出くわしたのだ。
「お前、部活の方はどうだ?」
「うん、相変わらず楽しいよ」
「……そうじゃなくてさ。異隊するために、優勝狙ってんだろ?」
「あー、そのことか。それが、今回は難しそうなんだよね」
「なんかあったのか? あんなに張り切ってたのに」
「遠征やら怪我やらで、大会に出られる人が少なくなっちゃったんだ」
「そうなのか。残念だったな」
「仕事を優先するのは当然のことだからね。仕方ないよ。でも、助っ人をお願いしてなんとか出場できるだけの人数は集まったんだ! 優勝とかは関係なく、みんなで完走できたらいいなって思ってる。せっかくこれまで練習してきたからね」
「お前ってほんと、走るの好きだよな」
「走るのはもちろん好きだけど、みんなで一緒にやるから楽しいんだ。だって、辛いことも嬉しいことも分かち合うことができるんだからね。それってとても素敵だろう?」
「……ま、頑張れよ。気が向いたら応援行くから」
「ありがとう!」
隠れて恵輔の話を聞いていた部員は、その場から去るとどこかに向かっていく。
恵輔はまだ、知らない。
自分が当たり前だと思い発した言葉が、燻っていた部員たちのやる気に火を点けることに――――――――――。