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真っ直ぐに向き合ってくれ
「……棄権するにしても、ちゃんと理由を部長に話せよな」
しばらくの沈黙の後に蒼一朗の口から出たのは、そんな言葉だった。
自分たちを咎めるような内容でも、出場させるための説得でもない。
その態度に、部員たちは驚きを隠せなかった。
「止めないのか……?」
「……出たくないって言ってる奴を、無理矢理出すわけにもいかねーだろ。俺も部長も、そんな気持ちで走ってほしくねーよ。今ならまだ、他の助っ人を探す時間はあるしな。だけど、部長には嘘を吐かずに棄権の理由を話してくれ。……あの人は、いっつも俺らに真っ直ぐに向き合ってくれてんだ。それくらいは出来るだろ」
「……ああ、わかった」
「……じゃ、お疲れさん」
蒼一朗は自分のロッカーから練習着の入った袋を取り出すと、部室を出て行く。
そんな蒼一朗の背中を複雑な気持ちで部員たちが見ていることなど、振り返らずに去った蒼一朗は知る由もないのだった――――――――――。