かける想いは人それぞれ
「おい……。今のどういうことだよ……!」
「か、柏木……!」
居ても立っても居られなくなった蒼一朗は、扉を開けて部室へと入る。
そこには、大会に出場する予定の五人の部員がいた。
先程の発言を蒼一朗に聞かれていたことが分かり、動揺しているようだ。
「俺の聞き間違いじゃなきゃ、棄権するとか言ってなかったか……?」
「………………………………」
「人数も揃って、なんとか出られそうだってのに……!」
「……全員が、お前みたいな奴と同じ気持ちだと思うなよ」
「は……?」
「俺たちは別に、元々大会なんて出たくないんだ……!」
部員の一人が、憤りを吐き出すように口を開く。
「もちろん、走るのは嫌いじゃない。体力作りは仕事にも活かせるし。……だけど、大会に出るってなったら話は別だよ。自分よりも速い奴が大勢いる部活だから、気楽な気持ちで今まで続けてこれたんだ。……自分の走りに、責任を負いたくないからな。ここにいる奴らは、みんなそんな風に思ってる。全員が、大会に出て優勝を目指してるわけじゃないんだ……!」
苦しそうにそう言った部員を、蒼一朗は静かに見下ろしていた。
薄々、彼らの気持ちには勘付いていたのだ。
彼らは、毎日の練習に真面目に取り組んでいた。
手を抜いたり、さぼったりしたことは蒼一朗が知る限り一度もない。
だが、その練習には他の部員たちや恵輔、そして蒼一朗とは違い情熱がなかった。
指示された練習メニューを、淡々とこなすだけだ。
彼らにとって走るとは、誰かと競い合うことではないのかもしれない。
(……俺は、あいつに勝つために入部した。いつも、負けるのは嫌だ、次は絶対に勝ってやるって思いながら走ってる。ここを利用させてもらってんだから部の勝利に貢献するのは当たり前のことだと思ってたけど、違う考えの奴もそりゃいるよな……)
蒼一朗は、自分とはかけ離れた考えを持つ部員たちにかける言葉が見つからない。
部室の中には、沈黙が流れたのだった――――――――――。