結果よりも、過程が大切な時もあるさ。
翌日、蒼一朗は駅伝部の練習へと向かった。
だが、いつもならば誰かしらが着替えている時間にも関わらず部室に人の気配はない。
不思議に思いながらも着替えを終え、グラウンドに出る。
そこにも数人の部員しかおらず、昨日までの活気は失われてしまっている。
「部長、みんなまだ来てないみたいすけど……」
グラウンドの隅で頭を抱える恵輔に、蒼一朗は声をかけた。
恵輔は力のない笑みを浮かべながら、それに答える。
「……やあ、柏木くん。君は大丈夫なんだね。よかった……」
「……大丈夫って、どういうことすか?」
「実はね……」
恵輔は、皆が集まっていない理由を語り始めた。
駅伝部の部員が所属している隊のいくつかが、長期の遠征に出てしまったそうだ。
彼らは部員である前に、軍人である。
任務を言い渡されれば、それに逆らうことは出来ない。
それに加え、この仕事には怪我がつきものだ。
このタイミングで、主力選手の数人が怪我を負ってしまった。
遠征に出た者、怪我をした者を除くと、ここにいる七人しか残らなかったのだ。
昨日までは、三十人以上の部員たちでグラウンドは賑わっていたのだが。
「……というわけなんだ。これじゃ、出場そのものが無理かもしれないよ……」
「そんな……!」
今回の大会は、十人で襷を繋ぐことになっている。
人数が揃わなければ、出場資格すら与えられないのだ。
だが、恵輔の目は死んでいなかった。
「柏木くん、誰か走ってくれそうな人に心当たりはないかな?」
「……ないこともないすけど」
「じゃあ、声をかけてみてくれない? あと三人なんとか集めて、大会に出よう」
「でも、寄せ集めのメンバーじゃ優勝なんて……」
恵輔は、なんとか人員を補充し大会に出場したいと考えている。
だがその面子では、優勝を狙うことは難しいだろう。
蒼一朗と恵輔を除く残りの五人は、それほど優秀な選手ではないのだ。
自分が走ることになるとは夢にも思わなかったようで、オロオロしてしまっている。
恵輔の優勝への想いを知っている蒼一朗は、悔しくて仕方がなかった。
「今回は、運が悪かったよ。また次の大会で、優勝を狙えばいいじゃない。それよりも僕は、出場できないことが嫌だな。せっかくみんなで練習してきたのに」
恵輔の中にも、勿論悔しさはある。
だが彼は、走ることが大好きな男だ。
何よりも嫌なのは、出場すら出来ないことなのだ。
「……わかりました。走ってくれそうな奴に声かけてみます」
「ありがとう。僕も、知り合いに頼んでみるよ。さあ、みんな。今日の練習を始めようか」
恵輔の掛け声を合図に、練習が始まる。
それは、活気がないながらも通常通りに行われた。
だが、蒼一朗が追いかける恵輔の背中は、どこか寂しそうに見えたという――――――――――。