大会、一ヶ月前
この日、蒼一朗は透花とのトレーニングに励んでいた。
その走りには、普段よりも力が入っているように見える。
だが、ランニングを終えた後の勝負は今日も透花の勝ちだ。
「くそっ……。今日も、負けた……」
「いや、でもかなり僅差だったよ」
「……確かに、何カ月か前に比べれば差は縮まってる気がするわ」
「今日の走りは、特に力が入っていたね」
「ま、大会も近いしな」
蒼一朗の所属する駅伝部の大会が、一ヶ月後に迫っていた。
それに向けて、いつも以上に奮励しているのだ。
蒼一朗の出場する大会は、特殊なルールのものだった。
複数人が襷を繋ぎ、交代で走るという点は同じだ。
だが、一人一人の走る距離が定められていない。
チームごとに戦略を練り、襷を渡すタイミングを決めることが可能なのだ。
出場する人数に制限はあり、一度走った者が再び走ることは出来ない。
このような特殊ルールの中、蒼一朗たちは優勝を目指している。
「蒼一朗さん、レギュラーに選ばれるかな」
「正直、わかんねーな。夏は全然練習に行けなかったし」
「……ごめん。それ、私のせいだよね」
一色隊は長い休みを貰ったため、夏は王都を離れていた。
そのため、蒼一朗はほとんど練習に参加できなかったのだ。
「そんなんじゃねーよ。あんたのおかげで、大和とも色々思い出作れたし。単純に、俺の力不足ってだけだ。未だにあんたにも部長にも勝てねーし、速い奴らばっかりだからな」
「……ありがとう。レギュラーになれるといいね。みんなで応援に行くからね!」
「おー。そのためにも、俺はもう少し走ってくわ」
「付き合うよ。最後に、また勝負しようか」
「……いいぜ。次こそは、俺が勝つ」
「私だって負ける気はないよ。というか、隊長として隊員に負けられないです」
二人は再び走り出した。
風は少しずつ冷たくなってきたが、体を動かしているおかげで寒くはない。
蒼一朗は、まだ知らなかった。
彼自身、いや、駅伝部全体に待ち受けている悲劇を――――――――――。