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人間だもの
湊人は、透花たちよりも一足早く屋敷に戻っていた。
誰とも会話を交わすことなく、自室へと直行する。
部屋に入り扉を閉めると、それを背もたれにへなへなと座り込んでしまったのだ。
(死傷者が出るような事態にならなくて、ほんとによかった……)
透花に励まされた時に止まった震えが、再び押し寄せてくる。
ああは言われたものの、何か起これば責任を感じずにはいられない。
あの瞬間、湊人の指先には多くの人命が委ねられていたのは事実なのだから。
誰も見ていない空間まで来たことによって、緊張の糸がぷつりと切れたのだろう。
人前では強がり、決して弱みを見せるようなことはしないのが二階堂湊人という男だ。
(ははっ……。今頃震えがくるなんて……。僕も、まだまだだね……)
自嘲したような、だがどこかほっとしたような笑みを浮かべながら、体を抱える。
その震えが止まるまでかなりの時間を要することになるとは、今の彼は気付いていないのだろう――――――――――。